なぜミガキイチゴは1粒1000円で売れるのか
【田原】岩佐さんのイチゴは高いもので1個1000円だそうですね。IT化でおいしいイチゴをつくれるようになったとしても、普通はその値段で売れません。どうやったらそんなに高く売れるのですか。
【岩佐】イチゴをブランド化するには、まず品質がいいものを安定的に供給することが大切です。それはIT化でクリアできました。次に必要なのは、売る場所です。具体的にいうと、伊勢丹のような高級百貨店に並べてもらえるレベルにしないといけない。
【田原】百貨店で扱ってもらうのは簡単にいかないと思うけど、どうやったんですか。
【岩佐】東京の大田市場に通って、最初から百貨店のバイヤーさんを巻き込みました。何回も食べてもらって、「これは酸っぱい」とか、「粒の大きさはこれくらいでいい」と意見を聞いて、売れるブランドを一緒につくっていったような感じですね。
【田原】それにしても1粒1000円はすごい。
【岩佐】ブランド化するには、糖度が高いといった機能的な価値だけでなく、これを買うことがわくわくするとか、プレゼントしたら喜ばれるといった、エモーショナルな価値が重要です。そうした価値を高めるためにデザインにも凝っていて、高級チョコレートのような箱に大切に1つずつ包んで売っています。ブランドも「ミガキイチゴ」と名づけました。
【田原】僕らがよく知っているイチゴのブランドに、「あまおう」や「とちおとめ」がありますね。ミガキイチゴは、これらと何が違うのですか。
【岩佐】あまおうやとちおとめは、品種ブランドです。品種ブランドは育成者権のパテントが切れると誰でもつくれるので、また新しい品種を開発せざるをえなくなります。山元町の産業として根づかせようと思うと、品種に依存しないブランド戦略が必要です。そこで私たちは、季節ごとに一番おいしい品種を選んで売っている。ミガキイチゴは、いわば地域ブランドですね。
【田原】ミガキイチゴのブランドでワインもつくってますね。これはどうしてですか。
【岩佐】イチゴがつくれる時期は11月から5月まで。期間が半年空きますが、お客様との接点が途切れるとブランドとして育ちにくい。そこで年間を通じて商品を提供できるように、お酒をつくりました。通年提供は経営的にも大事です。イチゴが半年間しかつくれないと、パートさんは期間雇用せざるをえなくなります。しかし、期間雇用だとスキルが育たず、単能工的な働きになりがちなので、若い人たちはやりたがらない。地元の産業にしていくには通年雇用が重要で、その意味でも年間を通じて何か商品をつくっていく必要があったのです。