【田原】ソフトって、どんなの?
【岩佐】たとえば水道局がモバイル端末を使って検針できるシステムをつくったり、競馬の予想ソフトを販売している会社にソフトを売ったり、いろいろです。
【田原】けっこう本格的ですね。
【岩佐】そうですね。21歳の時に駒澤大学の経済学部に入学したんですが、ソフト開発のほうが忙しくなっていたので、大学に通って勉強した記憶はほとんどないです。
【田原】じゃ、大学なんて行かなくてもよかったじゃない。
【岩佐】でも、面白い授業もありましたよ。駒澤大学が仏教系の大学だと気づいたのは入学した後。いい機会だと思って、禅の勉強を始めたのですが、これがなかなか深かった。当時はフワッとした知識を得て終わりでしたが、その後の会社経営で、禅で学んだことが役立ちました。
【田原】禅で得たものって何ですか。
【岩佐】無の感覚、空の感覚かな。禅には非思慮を思慮する、つまり考えないことを考えろという考え方があります。仕事でたくさんの事象を処理しなくてはいけない時に、この考え方のおかげで心が自由になった。いちおう大学はちゃんと卒業したのですが、禅を知ったことが唯一、大学に行ってよかったことですね。
【田原】会社組織にしたのはいつ?
【岩佐】ズノウという会社を立ち上げたのは大学在学中の2002年です。最初は有限会社で、従業員は私の他に1人だけ。資本金の300万円は、ソフトを売ったお金と、足りない分は定食屋でバイトしてまかないました。
【田原】ズノウでやっていたのは、どんな仕事ですか。
【岩佐】大きくいうと2つあります。1つは、システムの受託開発。当時はアナログのものをデジタルにして効率化するとか、いままで紙で管理していた顧客情報をデータベースで管理しようという流れがあって、企業と個別に契約を結んでそうしたシステムの開発をしていました。もう1つは、セキュリティです。企業が持っている個人情報の漏えいを防ぐためのシステムを客先で構築していました。
【田原】事業は順調でしたか。
【岩佐】出だしは順調で、数年で従業員は20人まで増えました。ただ、リーマンショックの時は危なかったです。取引先の会社がバタバタと倒産し始めて、一時期はうちも売り上げがかなり落ち込みました。私は社会人経験がないまま会社をつくりましたが、やはり自己流の経営には限界があります。いい機会だからとグロービス経営大学院に通って経営を勉強し直して、なんとか立て直すことができました。