業績を伸ばすために、競合他社との価格競争に陥ってはいないか。高価格帯でもヒットを生み出す企業は何をやっているのか。大企業から中小企業まで、4社の取材で法則と共通点が明らかに!

祝い事の贈り物で意外なものが人気を博している。京都の米販売業「八代目儀兵衛」の「お米ギフト」だ。出産や結婚など人生の節目の内祝いや引出物として年間80万個を売り上げ、楽天市場の内祝いランキングで3年連続1位を獲得した。なぜ、人気なのか。例えば、「十二単シリーズ 満開」(5400円)は、贈り先に届くとこんな“ストーリー”が始まる。届くのは豪華な金色の箱。開けると、赤、黄、緑、藍……12色の小さな風呂敷包みが並んでいる。中身は小袋に入った2合のお米だ。最高級の「極(きわみ)」、和食用の「和(わ)」、おにぎりに適した「結(むすび)」、寿司米の「鮨(すし)」、丼に合う「丼(どん)」……料理に合わせて12種類のお米が楽しめる趣向。「面白い」「こんなの初めて」。そして、順に試して家族でまた驚く。「お米ってこんなに甘みがあったんだ」。ほどなく、贈り先から贈り手に感謝と感動の声が届く。

一番人気は12種類の米を12色の風呂敷で包んだ「十二単シリーズ 満開」。箱の色は5色から選択可。

贈り手は「思い」が伝わったことを喜び、また利用しようと思い、まわりにも語る。実際、十二単が09年ごろからブレークしたのは、利用した女性芸能人やモデルがブログや雑誌で紹介したのがきっかけだった。ただ、このストーリーが成り立つには絶対条件がある。お米の味だ。米穀小売店の業界団体認定「お米マイスター」でもある橋本隆志社長によれば、「ご飯のおいしさの8割はお米です」。顧客に本当においしいお米を届けるまで、舞台裏では橋本社長と八代目儀兵衛のもう1つのストーリーがあった。

実家は200年続く旧庄屋の家系。大正時代に「米屋」を始めた。大学卒業後、米問屋を経て25歳で戻ると、家業は年々売り上げが漸減。原因は93年の米不足を機に制度が変わり、スーパーなどの一般小売店も登録制で販売参入になったことだった。

「米屋は数種の米を目利きし、ブレンドして味を安定化させましたが、スーパーでは目利きをする人がいないため、産地銘柄を前面に出す売り方を始めた。同じ産地銘柄でもエリアの違いやその年の天候などにより味が変わるのに、消費者は同じだと考え、同じ産地銘柄なら1円でも安いほうを買おうとする。価格競争になり、米屋の優位性が失われたのです」(橋本社長)