業績を伸ばすために、競合他社との価格競争に陥ってはいないか。高価格帯でもヒットを生み出す企業は何をやっているのか。大企業から中小企業まで、4社の取材で法則と共通点が明らかに!

メガネ店のカウンター。メガネを新調しにきた客は、フレームを何種類もとっかえひっかえ、迷いながら合うものを選んでいく。その光景を一変させたのが、福井・鯖江市のメガネフレームメーカー国内最大手「シャルマン」が開発した「ラインアート シャルマン」だ。

テンプル(つる)部分が太さ0.65ミリのワイヤー5本で組まれたフレームをかけた途端、客の目の色が変わる。

「今までのと全然違う。かけていないみたい」。価格は3万円台後半~7万円台と、海外ラグジュアリーブランドと同等かそれ以上だが、迷わず購入する。伊勢丹新宿店で51カ月、日本橋三越本店で5年連続メガネフェア売り上げトップの実績がそれを物語る。

伊勢丹新宿店の売れ筋、フォルテ コレクション。下は最高級ラインのオペラ コレクション。共にメンズ。

「普通、お客様がメガネを選ぶのに1時間くらいかかるのに、ラインアートはパッと購入決定される。お店にも喜ばれます」

シャルマンの堀川馨会長が語るように、その最大の特色は、一瞬で価値が伝わることだ。かけていることを忘れさせるほど、軽くやさしく包み込むかけ心地は既存商品と圧倒的な違いだ。しかも、時間が経っても型崩れせず、しなやかなバネ性が持続し、ホールド感が保たれる。それを実現したのは、業界の常識を破る新しい素材と技術の開発だった。店頭での「一瞬の感動」を生むため、要した期間は8年間。そこには、“忍耐の経済”ともいうべき、飽くなき理想の追求があった。

世界初の快挙は「エクセレンスチタン」という新素材の開発だ。バネ性を高めるには形状記憶合金が最適だが、従来使われたチタンとニッケルの合金には欠点があった。開発者の多田弘幸さん(技術開発課)が話す。

「硬くて加工が難しく、男性用のごついデザインはできても、女性用には不適。さらに、ニッケルは金属アレルギーを起こす原因の1位でした」