業績を伸ばすために、競合他社との価格競争に陥ってはいないか。高価格帯でもヒットを生み出す企業は何をやっているのか。大企業から中小企業まで、4社の取材で法則と共通点が明らかに!
一見すると、銀色をした縦横25センチのただの正方形の金属の網に見える。素材は(スズ)100%。値札を見て驚く。「えっ、1万2960円もするの?」。
横を見ると、網の四隅を上に引き上げてつくられたカゴが並ぶ。錫は柔らかく、簡単に曲げられる。自分も触っていじってみると、果物カゴがワインバスケットに変わった。「これ、自分で曲げて好きな形にして使うんだ。面白い!」。客は価格の意味を納得し、手にとる。富山・高岡市の鋳物メーカー「能作」が製造販売する「KAGO」はそんな商品だ。「8」の字の真ん中に縦に長方形の板を組み込んだ「箸置-8」は一個あたり1080円。8の輪の部分の曲げ方次第で、箸置きにも、レター立てにもなる。
つくり手が一方的に商品の価値をつくるのではなく、顧客も参加して用途を考え、独自の価値を生み出す。そんな使い方に共感した顧客は能作ファンになり、プレゼント用にも購入し、仲間を増やしていく。つくり手と顧客が商品を通じて共に価値を生み出す“能作ワールド”。ただ、それは初めから目指したのではない。下請けから自社製品開発へ、一歩ずつ進んだ能作克治社長が行き着いたのが「曲がる錫」だった。その過程をたどってみよう。
高岡は鋳造業が伝統産業。能作も真鍮で仏具や茶器、花器をつくる町工場だったが、製品の評判はよくなかった。そこへ、芸術大学卒業後、大手新聞社で2年半、写真記者をして退社した能作社長が先代の娘と結婚して「婿入り」。大企業にないやりがいを求め、「高岡一の鋳物屋」を目指した。30年前のことだ。同じ北陸でも福井県出身で職人としては素人。競争相手の同業者に謙虚に教えを求めた。
「富山では県外者は“旅の人”と呼ばれます。地元の人も旅の人には脇が甘く、同業者に教えない技術も教えてくれた。どんどん上達していきました」