鋳造業は分業制で、能作が手がけるのは着色前の工程まで。「金属の素の美しさを伝えたい」。顧客に直接評価される自社商品の開発を志したときから、自ら「わらしべ長者みたい」と語る多様な人々との出会いが始まった。

最初は地元での勉強会。持参した製品の品質の高さに在京のデザイン関係者が注目。東京での作品展を勧められた。2001年、原宿で展示会開催。出品した真鍮製の卓上ベルがインテリア・雑貨専門店「フランフラン」を運営するトップの目に留まった。

ところが、店に並んだベルは全然売れない。ふと訪ねた店でスタッフから声をかけられた。「音がいいので風鈴にしては」。これが大ヒット。「店舗スタッフは顧客の代弁者」と知った能作社長は改めて教えを請うた。「どんなものがいいでしょう」「食器です」。


多品種少量生産体制をとる同社。工房では、職人たちがそれぞれの持ち場に分かれ、鋳造や製品の仕上げなどを行う。

食品衛生法に適合する金属に錫があった。酸化に強く、抗菌性もある。錫製の酒器は酒の味がよくなるといわれた。錫の合金の食器はすでにあった。

「ならば誰もやっていない錫100%に挑戦しようと考えました。ただ、高純度の錫は曲がりやすく、“製品には不適”が常識で、社内の職人からも反対されました。決断できたのは“元が素人”だからです」

最初は肉厚にするなど弱点を補うのに苦労した。あるとき、1人のデザイナーに悩みを打ち明けると、意外な答えが返ってきた。「曲がるなら曲げて使えばいい」。弱点を強みに活かす逆転の発想だ。07年、「能作の曲がる錫」が誕生する。

すると、若手デザイナーが次々と制作を申し出てきた。そのなかの仙台出身の女性デザイナーが七夕飾りをヒントに発案したのがKAGOだった。