ところで、音楽を聴いているだけで脳の報酬系が活性化することを示した研究には、1つ、重要なポイントがある。それは、誰が聴いてもそうなるわけではないということだ。

同じ音楽でも、聴く人によって脳の活動が違う。すなわち、1つの曲を聴いて、報酬系がこれ以上ないほど活性化する人もいれば、全く活性化しない人もいる。

その違いが何から生まれるかというと、ただ1つ、聴く人がその音楽を好きかどうか、愛しているかどうかに懸かっている。同じ音楽でも、その曲を好きな人が聴くと、報酬系が活性化する。好きだと思っていない人が聴いても、同じ脳活動は生まれない。

コーヒーを飲めば、カフェインの興奮作用がある。あるいは糖分をとれば、脳への栄養補給となる。そのような、「万人に効く」ものとは違う、脳の活性化の方法があるのだ。

同じ音楽でも、その曲の良さを理解するためには、ある程度の経験や知識がなければ難しい場合もある。そのような曲を聴いて脳を活性化させるためには、脳に認知的負荷をかける必要がある。

高度で難しい音楽に挑戦することで、脳をより深く活性化させられる。(AFLO=写真)

簡単には良さがわからないからこそ、わかったときの脳の活性化はより「深い」。音楽だけではない。難しいと言われる小説でも、近寄りがたいと感じられる現代美術でも、熱心に取り組み、その意味が理解できるようになることで、かけがえのない脳の「糧」となる。つまり、脳の活性化と脳トレが、同時にできるのだ。

今、この原稿は、マーラーの交響曲第三番を聴きながら書いている。昔は、よくわからなかった曲だけれども、今は心から好きだと感じる。

興味のなかった曲でも、繰り返し聴いていると、徐々にわかって、脳の歓びとなる。同時に、脳の働きも高度になる。お手軽な脳の活性化よりも、効果が深く、長持ちする。

難しそうだと敬遠されがちな音楽にこそ挑戦して、深い脳の活性化の糧にしてはいかがだろう? 好きな曲の分だけ、脳の「資産」が増えていく。音楽は、貯金できるのだ。

(写真=AFLO)
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