イノベーション・ファシリテーターとは、変革を起こす対話の場をつくるプロである。いま、行政、企業、自治体、NPOなどでひっぱりだこだ。さまざまな立場のステークホルダーが組織の枠を超えて手を結び、一緒に新しい未来をつくり出す新しい方法とは? 元祖イノベーション・ファシリテーターの野村恭彦さんと、未来のビジョンを発信し続けているコンサルタントの神田昌典さんが語り合った(全2回)。

問いを問いなおすことの難しさ

【野村】神田さんと初めてお会いしたとき、私が肩書きとして使っていた「イノベーション・ファシリテーター」のことを「おもしろい肩書ですね」と言っていただいたのをおぼえています。

【神田】そうですね。『イノベーション・ファシリテーター』のまえがきにも書かせていただきましたが、とても新鮮でした。僕も「リード・フォー・アクション」という活動で読書会のファシリテーターを育てていて、いま400人ほどのリーディング・ファシリテーターが日本中で活動しています。

『イノベーション・ファシリテーター』(野村恭彦著、プレジデント社刊)

【野村】ファシリテーターというと会議の進行役のように思われがちですが、私は自分の仕事をそのようにはとらえていません。社会に変革を起こすための道筋を描く存在がイノベーション・ファシリテーターだと思っています。神田さんが読書会のファシリテーターを育てておられるという話を聞いて、私もこのイノベショーション・ファシリテーターという存在を日本中に広げて行きたいと思ったんです。

【神田】それで一緒に「イノベーション・ファシリテーター講座」をスタートさせることになったんですよね。これまでに企業、NPO、自治体の方とほんとうにさまざまな分野の方が参加されました。

【野村】かなりインテンシブな内容で安くもない講座なのですが、これが瞬時に満員になってしまう。イノベーション・ファシリテーターがここまで必要とされている理由は何だと思われますか。

【神田】いきなり大きな話になりますが、日本人にとって日本は明らかに狭すぎる、というのがまずあると思います。人口的に考えると、アジアの中間消費層というのは2020年には23億人で、日本の中間消費層はその1%ぐらいにしかなりません。だとしたらイノベーションを日本の中だけで考えようとするかぎり、完全アウトだというのが僕の今の認識です。そうすると日本の産業自体を変えていかなくちゃならない。より具体的に言えば、技術をベースに置いた、より研究開発型のものに転換していかないといけないと思うのです。

【野村】いまの会社のなかだけでやっていたら早晩行き詰るということですね。

【神田】そうです。考え方さえ切替えれば、すばらしい価値を生みだせる時代なのですが、いまの組織の枠組みでは自分はその価値を体現できないと思っている人が増えているのではないでしょうか。企業をなんとか生まれ変わらせたいという思いを持った人、地域社会をなんとか再生したいという思いの強い人たちが、自分の才能を埋もれさせないためにも何か行動を起こしたいと思っている。能力があってやるべきことも見えている人たちにとって、自分の社会的な意義が証明できない状況は、すごく苛立たしいというふうに思うんですよね。

【野村】今日より明日はよくなるだろう、と無条件に思えないなかで、「今日からもっと良くしなければいけない。自分から良くしなければいけない」っていう人も増えています。でも、右肩上がりの時代に最適だった縦割りの組織のなかでは動きが取れない。縦割りというのはそもそも分業の発想です。市場は縮小していますから、雇用も減り、作るものも減らしていくなかで、重要なのは効率化ではなくて価値を再発明することだと思うんですね。

そのためには横串で人がつながらなきゃダメじゃないかということをみんなすごく日々の仕事の中で実感している。縦割りのパワーに対抗する横串のロジックが必要なんですよね。