「問い」はデータではなく対話のなかにある
【神田】野村さんがおっしゃるように、いま、知的プロフェッショナルにとってのパラダイムシフトが起きています。僕はいまから20年前に、コンサルタントに憧れてこの職業に就きました。論理で問題解決をしていくプロセスにすごく魅了されました。で、ただ、その当時から20年経ったいま、与えられた問いをそのまま分析をするということ自体、やはり限界ができてきているかなというふうに思います。たとえば「業界でトップになるためのマーケティング戦略とは?」という問いに対する答えは、データと予算だけでは組み立てられない。その問いに行き着く以前のもっと根源的な問いを見出さなければいけないのです。
【野村】すごくよくわかります。
【神田】もちろん、コンサルティングの基本は数字です。それをもとにマーケティング戦略をつくるのですが、実際の問題は、数字よりもっと前の段階にある。つまり、そもそもの問いの立て方を間違えば、どれだけお金を掛けても企業は望む結果を得られません。そして関係者を集めて対話(ダイアログ)をしてみないと、問い自体を立てることができないのです。問いを見出すプロセスはダイアログの中にしかない。
【野村】分析から入るとダイアログではなく、単なるデータ収集になりがちなんですよね。
【神田】過去のデータにはそこにあったはずの人々の想いや気持ちを全部捨ててしまっています。突破口はそこにこそあるというのに。いままで捨ててきたものに目を向けないと、イノベーションは起こりません。多くの企業は、提示された問いについてはお金を出すけれど、問いを見つけるプロセスにはお金を出そうとしない。その発想自体を変えていかなくてはならないですね。そのことにようやく時代が気づきはじめたようにも感じています。ほんの2年前ぐらいだったら、コンサルティングレポートに対して数千万円を払うのに、ファシリテーションというは何かの付属サービスのように考えているところが多かったけれど、ようやくその価値観が変わってきています。
【野村】イノベーション・ファシリテーターの仕事は、答えを提供することではありません。企業であれば、部門を越えた社員やステークホルダーが対話し、理解し合い、自主的に変化を生み出していく関係を生み出していくことです。そのため、経営トップが示すべきものは「社員が考えなくても分かる目標値」ではなく、「対話を生み出す問いかけ」になります。これは、行政や自治体のトップにも言えることです。
これからの時代、イノベーション・ファシリテーター型の経営トップや行政トップが次々と現れるでしょう。そして、答えを持ってくるコンサルタントが栄えた時代から、一人ひとりの能力を引き出す共創環境をつくるイノベーション・ファシリテーターの時代がやってくると、心から期待しています。
富士ゼロックスを経て、2012年6月、企業、行政、NPOを横断する社会イノベーションをけん引するため、株式会社フューチャーセッションズを立ち上げる。K.I.T.虎ノ門大学院教授。国際大学GLOCOM主幹研究員。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。工学博士。著書に『フューチャーセンターをつくろう』『裏方ほどおいしい仕事はない!』『サラサラの組織』(共著)など。翻訳監修書に『シナリオ・プランニング』『コミュニティ・オブ・プラクティス』『ゲームストーミング』『発想を事業化するイノベーション・ツールキット』などがある。
神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント、作家、日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』発起人。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。外務省、戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー(日本代表)を経て、1998年、経営コンサルタントとして独立。顧客獲得実践会(のちに「ダントツ企業実践会」、現在は休会)を創設。同会は、のべ2万人におよぶ経営者・起業家を指導する最大規模の経営者組織に発展、急成長企業の経営者、ベストセラー作家などを多数輩出した。1998年に作家デビュー。『全脳思考』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『非常識な成功法則』『ストーリー思考』など著書多数。翻訳書に『ザ・コピーライティング』『ザ・マインドマップ』『人を動かす新たな3原則』『ビジネスモデルYOU』などがある。