私がフューチャーセンターに惚れ込んでいるのは、企業での新しい商品やサービスを生み出すイノベーションのワクワク感と、社会問題の解決をめざした社会イノベーションのホカホカ感が、両方同時に味わえるところです。しかし、企業の中でこのようなワクワク感を感じられるシーンは、確実に減ってきています。 社会起業家も同様で、ホカホカ感よりも、無力感や孤立感を感じることが多いのが現実です。それはなぜでしょうか。
野村恭彦●イノベーション・ファシリテーター。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)主幹研究員。富士ゼロックス株式会社 KDIシニアマネジャー。K.I.T.虎ノ門大学院ビジネスアーキテクト専攻 客員教授。 ©Eriko Kaniwa

まず企業から考えてみましょう。企業はこれまで、「世の中に不足したモノ」を作ることで価値創造をしてきました。他の国にはあるモノがないとか、食べ物が不足しているといった、「不足」のニーズを埋めることは、比較的簡単なイノベーションでした。でも、今はそんな時代ではありません。

多くの企業が、イノベーションを起こせなくなっています。もっと売れる携帯電話、もっと売れる自動車、もっと売れるマンション、もっと売れるお茶。どの商品も街にあふれています。そこで「差別化」が謳われ、新機能満載の商品が広告費をかけて売り出されます。しかしそれはシェア争いをしているだけで、イノベーションとは程遠いレベルの価値創出にとどまっています。あらゆる業界に、大きな発想の転換が求められているのは確かです。

私は多くの企業で、イノベーションをねらったプロジェクトに関わってきました。そこで学んだ最大の学びは、あらゆる失敗の原因は「プロジェクトの提案プロセス」にあるということです。

この失敗パターンは、「イノベーションを計画する」という矛盾にあふれた困難さに起因するものです。社内提案を通そうとするあまり、「必ず成果は出るんだろうな?」と経営層に問われ、「もちろんです」と答えさせられてしまいます。これを私は「儲かりますパラドクス」と呼んでいます。ビジネス成果を目標に据えた瞬間に、「既存の価値観で新しいものを評価する」ゲームに絡め取られてしまうのです。

このパラドクスにはまっていることは、プロジェクトが進むに従って次第にあきらかになってきます。序盤のアイディア出しまでは盛り上がっても、事業を構想する段階で、新しいアイディアを正当化する材料がなく、どんどん角が取れた事業プランになっていくのです。そうなってしまうと、せっかく提案を通して始めたプロジェクトにもかかわらず、失敗のプレッシャーから、チーム全体にやらされ感が漂い始めます。