コミュニケーションは、多様な要素の複合体(発信側だけでも「伝え手」「伝える中身」「伝え方」が関係している)である。経営者の話を分析していくと、いかなるときにも有効な「普遍原理」のようなものが確かに存在している。ここでは、それぞれの経営者が見出した「伝え方」を考察してみよう。

詳細な指示書よりラフな目次案が大事

三菱重工業会長
大宮英明氏

02年、慣れ親しんだ航空宇宙事業本部から冷熱事業本部へ異動したときのことだ。驚いたことに、給料袋のデザインが違っていたのだ。

三菱重工業は戦後の財閥解体で3社に分割されたあと、再合同を果たしたのが1964年。6年後には新従業員制度が発足し、給与体系などはそのときに一本化されたはずだった。

ところが現実には、給料袋ひとつとっても部門間に違いがある。当社は利益率が高いとはいえないが、原因のひとつはこうした事務の重複、非効率にあった。その後、子会社を設立して全社の給与計算を集約したところ、人員はなんと3分の1に収まった。

風土改革の必要性を説くときには、こういったエピソードが必要だ。トップが理念を語ることは大事だが、それだけでは受け手である社員たちは納得しない。納得しなければ動かない。

大切なのは、わかりやすい論理の筋道(理念)と、それを支える現場の事例とをセットで伝えることだ。目に見えるエピソードを差し挟むことで、誰もが問題点をイメージしやすくなるからである。

一方、論理の筋道を通すためには、大雑把な目次づくりから入り、細部を詰めていくというやり方が有効だ。たとえば中期経営計画の説明資料を作成するときの手順を紹介しよう。

最終的には担当者がパソコンでパワーポイントに落とし込むが、資料の骨子をつくり指示を与えるのは私の役割だ。この段階は、必ず手書きである。

最初に「目次」をつくる。どのような内容を伝えたいのか、紙の上に個条書きで書き出していく。ここで重要なのは、7割ほどの完成度で作業をいったんやめるということだ。

資料作成時の10人(副社長から部長、主任クラス)会議は、課長時代の指導法にルーツがある。