コミュニケーションは、多様な要素の複合体(発信側だけでも「伝え手」「伝える中身」「伝え方」が関係している)である。経営者の話を分析していくと、いかなるときにも有効な「普遍原理」のようなものが確かに存在している。ここでは、それぞれの経営者が見出した「伝え方」を考察してみよう。

何を伝えたいかタイトルに凝縮せよ

みずほFG名誉顧問 前田晃伸氏

文章を書くというのは、単に自分の考えを書きつけるだけでなく、自己を確立することでもあります。私の故郷である大分県中津市は、「独立自尊」を説き、生涯その理念を貫いた福沢諭吉の出身地です。

小学生の頃、私は自宅近くの公園の石碑にその諭吉の言葉が刻まれているのを目にしながら育ちました。

これは、とても孤独な言葉でもあります。誰かに寄りかかることなく、最後は自分自身で責任を取るということだからです。

これまでの人生の中で、私は進路を決めるときや経営上の大きな決定を下すなど、決断が必要な場面では、常にこの言葉を思い浮かべ、心に置いてきました。決断をするときというのは、自分の中に軸が必要です。しかも、その軸がしっかりしていなければ、さまざまな複雑な要因を抱えた状況の中で公平かつ合理的な判断を下すことはできません。

文章を書くのもこれと同じことです。考えの軸がしっかりしていなければ、書きながらあちこちに揺れてしまう。その結果、余計な時間がかかってしまいます。あるいは自分の思いと違うことを書こうとすると、自分の中でロジックがぶつかってしまい筆が進まないということが起きる。

だからこそ、十分に頭を整理してから書くこと、また本音を飾らない言葉で書くことが大切なのです。

私は文章はなるべく短くするように心がけています。そのほうがシャープになるからです。日本語というのは、文法的には主語がなくても成り立ってしまう言葉です。

そのせいか、途中で主語や話題の主体が入れ代わってしまい、切れ目なく続く文章が、とくに若い人のレポートなどでは目立ちます。平安時代の文学作品ならまだしも、ビジネス文書ではこれは不可です。