<「考える、書く、行動する」三位一体の仕事術>

<strong>みずほフィナンシャルグループ社長 前田晃伸</strong><br>1945年生まれ。68年東京大学法学部卒業、同年富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2001年富士銀行副頭取。02年みずほホールディングス社長に就任。03年から現職。
みずほフィナンシャルグループ社長 前田晃伸
1945年生まれ。68年東京大学法学部卒業、同年富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2001年富士銀行副頭取。02年みずほホールディングス社長に就任。03年から現職。

「神様は人間に『本物にだけ感動する能力』を与えてくれたのではないでしょうか。(中略)『きれいでなくとも生きた本物の言葉』を発し合いましょう。これが真のコミュニケーションの原点です」

これは、いまから15年前、「川親マンスリー」という店内新聞の1992年5月号に私が書いた文章の一部。この新聞は、私が川崎支店長(神奈川県)になったときに、「支店内で新聞を発行しよう」と提案してつくったものです。編集長の役割は新入行員に務めさせ、私は巻頭文を担当しました。

このとき私が部下に伝えたかったのは「自分自身の言葉を発しよう」「借り物の言葉をやめよう」「装飾のある言葉は相手に伝わらない」ということです。

現在、私は、みずほフィナンシャルグループの社長として、社内報に巻頭文を寄せる立場にあります。しかし、どんなに忙しくても、毎号必ず自分で書いています。自分自身の頭で考えること、それを自分の素直な言葉で伝えること。そのことこそがコミュニケーションの原点だと思うからです。

しかも、前述の「川親マンスリー」では、私の巻頭文だけが、汚い手書きの文字です。文字というのは、その人のもつ個性そのものです。自分の思いを伝えるためには、時と場合によっては、パソコンではなく、あえて手書きにこだわる。できればそういう点も大切にしたいと考えています。

実をいうと毎年の年賀状もすべて手書きです。宛名だけでなく中身の文章もです。表も裏も手書きとなると、800枚程度が限界なので、お世話になっている全員に出すわけにはいきません。それでも手書きにこだわるのは、受け取る側に書き手の気持ちや気概を感じてもらうことが、文字によるコミュニケーションの第一歩だと思っているからです。

社内報の巻頭文ではさすがに手書きのままとはいきませんが、誰に向かって何を語るのかを常に意識して、1対1の手紙のつもりで書いています。

いまのタイミングであれば、何を優先的に伝えるべきかにも、いつも気を配ります。タイムリーであることは、誰に何を伝えるかと同じくらい大切です。経営環境というのは常に変わりますし、環境が変わったときにはいちばんふさわしいメッセージを、いちばんふさわしいタイミングで伝えなくてはなりません。