大切なことが、もう1つあります。ビジネスの世界では、書くことには、必ず行動が伴うと考えなければならないということです。考えること、考えていることを言葉にして書くこと、実際に行動すること。この3つがバラバラであってはならないのです。

その意味で、書くということはコミット(誓約・約束)することと同義です。「私はこう思います」と書くことは、「だから私はこういう行動をします」と言っていることと同じなのです。

別の言い方をすれば、頭の中で考えていることを文字に移した時点で、そのとおり自分が行動するという覚悟をもたなくてはならないということです。ですから、ビジネスにおいて書くことは実は怖いことでもあるのです。そこが、評論家や随筆家とは異なる点です。

しかし、怖いからといって曖昧模糊とした安全パイの文章ばかり書いていたら、つまらない。「それでどうしたの?」と言われてしまいます。そうならないためには、普段自分がいる位置から、一歩踏み出して、私はこうしたいとコミットし、宣言することが大切です。

しかも、踏み出すのは非常につらいことですが、そういうクセをつけないと、なかなか能動的な人間というのはできあがりません。私自身、社内報を書くときには、鉛筆をもって紙に向かいながら考え、書くことで、自分の考えていることと行動に矛盾が生じないかをチェックします。

経営のトップとして、グループの人間に社内報で伝えたいことはたくさんありますが、各回のテーマはたいてい2つ程度に絞っています。1ページしかない文章の中で、いっぺんにたくさんのことを伝えようとすると焦点が拡散してしまうからですが、もう1つの大きな理由は、経営者として書いたことをグループがちゃんと行動として踏み出せるかと真摯に考えるからです。マニフェスト(宣言・声明文)を5個も10個も無責任に書くわけにはいきません。