仮に平安文学調でも、一対一で面と向かって話しているときは通じますが、それを文章にすると、読解に努力が必要なものとなってしまいます。何を伝えたいかわからないと言われてしまうのも、多くはこのような文章です。
この日本語の特性を理解して、ビジネス文書では意識的に主語をはっきりさせたほうがいい。行動の主体はいったい「私は」なのか、「会社が」なのか、それとも「私も」なのか。そこに気をつけただけでも、話の筋道がスッキリしたシャープな文章になるはずです。
内容的にも、すべてをダラダラと書くのではなく、私の場合は凝縮することに時間をかけます。いらない部分は、思い切ってバサバサと捨てる。絶対必要なものだけが残っている文章のほうが訴える力も強くなるはず。ですから、いちばん難しいのはタイトルを決めるときです。何を伝えたいかは最後はタイトルに表れるわけですから。
(07年6月4日号当時・社長 構成=小山唯史)
奈良雅弘氏が分析・解説
最初に分析・解説するのは「事実や意見を相手に理解してもらう」という目的に照らしたとき、どのような伝え方が望ましいかについてである。
世の中に悪文は多々あるが、ことビジネス文書に関していえば、悪文と呼ばれるものには共通性がある。何か。相手を見ていないということである。相手の関心は何か。相手は今どういう状況にあるのか。そうしたことに配慮せず、見当外れなことをダラダラと書く。こうした傾向がほぼすべての悪文に共通している。
前田氏の話は「凝縮せよ」が中心的なメッセージになっている。もちろん相手の時間を奪わない、相手にストレスを与えないという配慮でもあるが、その努力が、自己の思考を整理・強化するうえで大きな意味を持つことも、もう一つの重要なメッセージとなっている。
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。