「結論はなんだ? まず結論は?」
1998年に三菱地所からソフトバンクに転職した私は、孫正義社長に提案を行おうとして、何回この言葉を投げつけられたことか。提案書に気の利いたキャッチコピーを付け、内容を裏付ける詳細なデータで補強したつもりでも、孫社長の心を最初の10秒で掴めなくてはだめ。「もういい」と一言。あとは目を通してもらえず、話も聞いてもらえない。
いまでこそソフトバンクは押しも押されもせぬ大企業だが、当時はヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源が不足しがちなベンチャー企業にすぎなかった。効率よく仕事を進めて、いかに大きな成果を挙げていくかに血眼になっていた。要領を得ないプレゼンに付き合っている余裕など、孫社長にはなかったのだ。
とはいうものの、1人の人間の能力には限界がある。何かよいアイデアを考えようとしても、時間が無限にあるわけでもない。全社員の能力を最大限引き出し、それぞれのアウトプットを積み上げていくことで、会社全体として大きな成果へとつなげていくしかない。そして、試行錯誤しながら私が行き着いたのが、A4 1枚を活用した仕事術だったのである。
なぜ、私がA4にこだわるのかというと、読む人が一目見ただけでそこに書いてあることを認識することができるから。ほんの少しだけ頭を動かせば無理なく文字などを読める「注視安定視野」の大きさは上下232ミリメートル、左右323ミリメートルといわれている。これはA4用紙の210×297ミリメートルとほぼ一致している。
仕事の関係で、たまにA4の2倍サイズであるA3を使った説明資料を手渡されることがある。しかし、そこに何が書かれているのか一目ではわからないし、それを見ただけで私は読む気が失せてしまう。それと不思議なことに、A3の資料をきちんと説明してもらおうとしたら30分以上かかることが多い。