当時の仕事は、航空機の設計図を解析することだった。膨大な手間がかかる解析は、部下とともにチームで進めなくては間に合わない。そのときに、どのような意図で、どのような結果を出してほしいのかを過不足なく伝えるのは難しい。
私は当初、目的や意図を誤解なくスムーズに伝えるため、部下への詳細な「指示書」をつくるようにしていた。目的、期限、予算、参照すべき資料などを紙の上に列記し、どのようなアウトプット(計算書)を出してほしいかを明文化した。
ところが、どういうわけか十分に意図が通じない。部下が1週間もかけて作業をした結果が、私の指示とはかけ離れていたりする。
考えてみれば、自分では完璧な指示書を書いているつもりでも、それを解釈し実行するのは部下である。そのことを私は計算に入れていなかったのだ。
そこで、別のやり方を編み出した。「計算書をつくれ」と命じるのはやめて、「まず目的と成果を盛り込んだ目次案をつくってみなさい」と、射程の短い指示を出すことにしたのである。部下は半日ほどで目次を提出する。私はそれをチェックして、やらせたいことと合致しているかどうかを見極める。そののちに、時間のかかる計算書の作成に進ませるのだ。
まずはラフな目次をつくらせ、早めに修正することでスピードと品質を確保する。これは中計の資料のつくり方と共通している。7割方の目次をつくり、細部を詰めながら全体の流れを修正する。最後にスタッフを巻き込み、質を高める作業を繰り返す。これこそが創造性を発揮する秘訣である。
(10年8月2日号 当時・社長 構成=面澤淳市)
奈良雅弘氏が分析・解説
ここで紹介したのは、「部下を動かす」ためには、どんな「伝える(指示する)」が望ましいかに関するものである。
「良い指示」であるための最大の条件は、相手(部下)が「動きやすい」ということである。たとえば抽象的な指示よりも具体的な指示のほうが動きやすいだろうし、一時に多くを言わず、焦点を絞ったほうが動きやすいに決まっている。相手の動きは大きく変わってくるはずである。
大宮氏が語っているのも、部下の「動きやすさ」である。中心的に語っているのは、指示される側の立場から考え、逆算的に指示内容を考える姿勢の重要性である。相手が理解でき、動けるものであるためには、どのような指示が理想なのか。長年の経験から得た具体的ノウハウを、わかりやすく教えてくれている。
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。