教育改革で「官民一体型」の学校を作る
【塩田】今後の武雄市政の重要な課題は。
【樋渡】教育です。今年4月に、市内の小学生全員にタブレットを配った。中学生には来年配るつもりです。それにとどまらず、授業のあり方を全部変える。4月17日に、民間学習塾の「花まる学習会」と一緒になって「官民一体型」の学校をつくると発表しました。開校は来年の4月です。国語とか算数などの科目も、たとえば発想力とか生き抜く力といった形に変えようと思っています。外向けに「国語」と標榜していても、教えるときは思考力とか発想力とか表現力という言い方をしたほうが子どもたちは飛びつきやすい。
【塩田】行く手に文部科学省が立ちはだかるのでは。
【樋渡】大丈夫です。われわれは学習指導要領の範囲内でやりますので、文科省も応援してくれると思います。
【塩田】そういう教育を行う狙いは何ですか。
【樋渡】自分で飯が食えて、魅力的な大人をつくりたい。へこんでも倒れない、そういう大人をつくりたい。正解を求める人ではなく、正解をつくっていく人たちを育てたいなと思っています。
【塩田】教育委員会とか教職員組合の反応は。
【樋渡】のけぞっています。ですが、やります。やりながら、だんだん修正していきます。でも、最初から10の落としどころを考えて10をやっても、たぶん1とか0になるので、10の落としどころに落とし込むときは100を投げますから。
今後は、来年の開校に向けて、徐々に落とし込んでいきます。役人だったから、そこは得意です。役人の根回しはすごいですよ、本当に。徹底して根回しします。僕は係長だったとき、それを指揮したこともありますから。
落とし込むのは、恋愛と一緒です。自分たちがやろうとしていることが合っているか間違っているのかはちょっと脇に置いておいて、とにかくその人を好きになって、通していく。大学時代、NHKの集金のアルバイトで荒稼ぎしていたことがありますが、そこで説得することは恋愛することだと教わりました。
【塩田】将来、市長の仕事を終えた後、次にやりたいことは何ですか。
【樋渡】料理をやりたい。すごく好きです。イタリアンでもタイ料理でも。タイ料理は100 くらいのメニューをつくれます。タイへ行ったり、いろいろなところを放浪したりして覚えました。厨房に入れてくれるので、そこで習った。
【塩田】人生の目標は。
【樋渡】まったくありません。これから目指すところって、ないです。医者と一緒だと思っています。目の前にいる人の苦しみとか痛みとか悲しみをすくい取って政策にするのが僕の役割だと考えています。それをやっていくだけです。
【塩田】ありがとうございました。ご健闘をお祈りします。
佐賀県武雄市長
1969(昭和44)年11月、佐賀県武雄市生まれ(現在、44歳)。
佐賀県立武雄高校、東京大学経済学部卒。総務庁(現総務省)に入庁。内閣府参事官補佐、総務省大臣官房参事官補佐、大阪府高槻市市長公室長(出向)、総務省秘書課課長補佐などを歴任。2005年に総務省を退職し、06年に武雄市長に当選。08年に武雄市民病院の経営形態をめぐって市民グループが市長リコールを固めたために市長を辞職、出直し市長選で当選。09年に市長に再選。14年4月に3選。
武雄市図書館の管理運営を、TSUTAYAを運営する民間企業のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に委ね、世界規模のコーヒー店チェーンのスターバックスの出店を認めるなどの図書館改革や、武雄市民病院(現新武雄病院)の民間委譲などを推進して全国的に注目を集めている。2012年1月に「AERA」の「アエラが選ぶ 日本を立て直す100人」、10月に「日経ビジネス」の「次代を創る100人」に選出される。
著書に『首長パンチ』(講談社刊)、『「力強い」地方づくりのための、あえて「力強い」戦略論』(ベネッセコーポレーション刊)。近著に、図書館改革を取り上げた『沸騰!図書館』(角川書店刊)がある。