石破茂・元自民党幹事長が自民党総裁選への立候補を正式表明した。石破氏は記者会見で、安倍氏を痛烈に批判し、対決姿勢を打ち出した。総裁選の争点のひとつは「憲法改正」。石破茂氏は「今の憲法が集団的自衛権の行使を禁じているとは思えず、改憲を急ぐ必要はない。それよりも経済成長を優先すべきだ」と話す。ノンフィクション作家の塩田潮氏が聞いた――。(後編、全2回)

集団的自衛権の行使は憲法判断ではなく政策判断

【塩田潮】安倍晋三首相は「在任中の憲法改正実現」が悲願で、最大の狙いは第9条の改正と見られていますが、石破さんは改憲問題をどう捉えていますか。

【石破茂・元自民党幹事長】われわれは野党時代の2014年に、いわゆる平成24年憲法改正草案(自民党憲法改正推進本部策定「日本国憲法改正草案」)を党議決定しました。ですが、ただちに憲法改正が実現するわけではありませんから、それまで安全保障基本法という法律をつくって、当面の安全保障の課題を乗り越えたいと考えてきました。

安倍首相は従来の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、実施のための平和安全法制を国会で成立させましたが、私自身は、もともと今の憲法が集団的自衛権の行使を禁じているとは思っていません。集団的自衛権の行使は、憲法上の判断ではなく、政策判断だと思います。政策的な判断ですが、何でもかんでも行使していいわけではない。行使の対応については安全保障基本法で厳しく制限をかけるべきだと考えてきました。

日米安保体制は、アメリカが日本を防衛する義務を負い、日本はアメリカに基地を提供する義務を負っているという「非対称的双務性」を持った条約になっています。この、お互いに負う義務をできるだけ対称的にしたいと思ってきました。その考えに立ってできたのが自民党の憲法改正草案であり、安全保障基本法案でした。自民党は野党時代にそれを掲げて党を立て直し、政権を奪還したと私は思っています。

平和安全法制をつくるとき、防衛相兼安全保障法制担当相を、というお話もありましたが、あの平和安全法制は自民党が決めた安全保障基本法とは違うものでした。平和安全法制では、集団的自衛権の行使の態様が相当に制限されています。そして、これ以上の集団的自衛権の行使には憲法改正が必要、というのが安倍首相のお考えでした。

だけど、集団的自衛権の行使は憲法判断ではなく、政策判断だと私は今でも思っています。だからこそ、安保法制担当相としては答弁できないと考えたのです。もし安保法制担当相を引き受けて、国会で「あなたは、集団的自衛権は憲法上の制約ではなく、政策的な判断だと言っていたが、その考え方は今でも変わりませんか」と野党から聞かれて、「変わりません」と言ったら、閣内不一致で、安倍首相に大変なご迷惑をかける。他方、「私は考え方を変えました」と答弁したら、自分が自分でなくなるので、どっちも駄目です。それで防衛相兼安保法制担当相はお断りせざるを得ませんでした。

憲法改正は、これなら改憲案の発議要件である衆参の3分の2が取れるだろうとか、これなら国民投票で国民の過半数が支持するだろうといった発想に立つのではなく、最高法規である以上は自民党として究極の理想形を追うべきだと私は思っています。国民を説得するためにも「理想の憲法」が必要だと思います。それは5年や10年はかかることでしょう。急ぐべきことは何かというと、やはり経済が持続的に発展していくことです。