注目浴びた「復興庁を防災省に」発言の真意
【塩田】その経済の持続的発展には何が必要ですか。
【石破】今までとまったく違うやり方が必要だろうと思っています。今、経済の7割強がサービス業、第3次産業で、その生産性が非常に低い。民間に対して、それぞれの産業別で、どうやって生産性を上げ、地方の雇用と所得を創出するか、民間にも考えていただかなければいけない。政府は何をすべきか。民間や地方で意識改革が行われるような政策を実施することが重要です。構造改革に挑戦する場合の壁がいつも問題になりますが、何が壁なのか、民間や地方からの具体的な提案を受けてこそ明らかになる部分もある。既存の岩盤規制に本当に穴を開けていくためには、地方にもっと権限、人材、財源を渡していくことが必要だと思いますね。
地方創生担当相として取り組んだとき、「よし、頑張ろう」という気になって下さった地方が多かったのは事実です。私はもう一度、地方創生を大きな規模でやりたいと思います。地方に活力を、というのは、人口減社会の日本では、地方のためというよりも日本のためになることですから。
【塩田】外交についてお尋ねします。「日米同盟は世界の公共財」という発言を目にしましたが、安保条約をベースとした日米同盟体制をどう捉えていますか。
【石破】アメリカの力は相対的に弱まっていきます。その中で、東アジア地域におけるバランス・オブ・パワーを保つためには、アメリカとの同盟だけでいいのか、そして日米同盟が持続的に機能するようにするにはどうすればいいのか。アメリカの安全保障政策は、これまでは「ハブ・アンド・スポーク型」でした。アメリカがハブで、スポークがあちこちに放射状に伸びるという形です。ですが、世界の公共財として、より大きな機能を果たすには、「ネットワーク型」に変わり、例えばアメリカ、オーストラリア、カナダ、日本が相互にネットワークになっていくような工夫が必要ではないかと思いますね。
実際には、日米同盟は、かなり基地所在地域の負担によって保たれていると私は思っています。そこを正面から考えなければいけない。沖縄の基地問題を、「あれは沖縄の問題。沖縄はかわいそう」と捉えている限り、日米同盟は進化しないと思います。
【塩田】今年の7月、西日本豪雨で大きな被害が出たとき、「現在の復興庁を防災省に」と提言して、注目を集めました。
【石破】急に言い出したのではありません。私は5年くらい前からずっと言ってきた。東日本大震災のとき、私は自民党の政調会長として復興庁の創設を申し上げたが、当時の菅直人首相は「復興庁は要らない。阪神・淡路大震災のときもつくらなかった」と言い放った。
私は東日本大震災が起こってまもなく、宮城県牡鹿郡女川町に出かけ、無理をお願いして避難所に一晩泊めてもらってみなさんの話を聞きました。「陳情するのはおれたちの仕事ではないのに、国土交通省に行ったら農林水産省へ行け、農水省に行ったら経済産業省へ行けと言われた。ひどいじゃないか」という話をずいぶん聞いた。
結局、復興庁はできましたが、そのときから、私は、ここにくればワンストップでいろいろな災害に対応できて、全部解決するという組織が必要だと思いました。災害対応は何よりも教訓の蓄積であり、それを共有し、伝承することが重要です。防災省でも防災庁でもいいが、そこに入って辞めるまでずっと務める。巨大な権限を持つということではなく、経験が蓄積され、伝承され、共有するという省庁は絶対に必要です。伝承される経験の蓄積を全国の1718市町村すべてと共有することは国の責務だと思っています。
アメリカには連邦危機管理庁(FEMA)があります。地方創生担当相のとき、訪米して連邦危機管理庁の長官以下、スタッフと長い時間、ディスカッションしてきました。強大な権限を集めるわけではない。いろいろなノウハウを持ち、それを蓄積しています。それが意識の中にあって、日本版FEMA構想を一つのかたちにすべきだと思いました。