理論がなければ政治家をやる意味はない

【塩田】東日本大震災による原子力発電所の事故以来、「脱原発」が真剣に議論されていますが、原発政策については。

【石破】日本は原子力技術を放棄すべきだとは思いません。中国が原発を止めるという話も聞かない。安全と安心、この二つは違うものですが、両方とも最大限に確保された原発は、私は再稼働すべきだと思っています。

一方でこの先、再生可能エネルギーの技術ももっと高度化、汎用化させるべきです。太陽光パネルの質の向上、地熱やバイオマスの加速、蓄電池の能力向上などに加え、IT・スマートメーターなどの導入により、電力の使い方をもっと賢くすることによって、原発に対する依存度を低下させられれば、次のエネルギーの基本的な考え方が見えてくるのではないかと思います。

【塩田】以前にインタビューで、田中角栄元首相について「魔神」と表現し、「強烈な存在感。その後どんな政治家に会っても普通の人に見えてしまう怖さ」と評していました。若い頃、近くで接して、どんなことを教わりましたか。

【石破】選挙では「歩いた家の数以上の票は出ない」と言われ、日頃の活動が大事だと教わった。その点は、私も後輩たちに受け継いでもらおうと努力しています。

【塩田】田中元首相から「民意を知り、民意を実現するのが政治」という姿勢を学んだという話も伺いました。石破さんは「お客さまは国民」と「民意第一」を唱える一方、政治家として自身の理念を大事にする「理念派」の面も強烈に持っているように見えます。

【石破】政府が打ち出す政策が全国の1718の市町村の共感を本当に得ているのかどうか、政策をつくるときも、「あそこのあの人に、これはどう映るのか。この人は本当にこの政策を望んでいるだろうか」という思いを巡らせることは、とても大事なことだと思っています。こんな困難な時代になって、政治が悩みごとをいっぺんに解決できるわけはない。だけど、政府はおれたちのことをきちんと分かっていてこういう政策を出しているんだよね、という共感は必要ではないかと思います。それが田中流だと私は思っています。

【塩田】前に自分のことを「理屈で納得しないとなかなか動かない」と話していました。

【石破】だから、久しぶりに会った人からは「おまえ、何も昔と変わっていない」と言われますけどね(笑)。それはそういうものではないでしょうか。憲法をめぐる自民党内の議論でも、私はずっと自説を変えていませんし、その点については今でも自信を持っています。「理屈は石破さんの言うとおりなんだけどね」と言ってくれる人は多いですが、「あいつはいつも理屈が多い」とも言われます。

ですが、理屈が立っていなかったら、本末転倒じゃないですか。じゃあ何のためにこの仕事やっているんですかという話になる。やはりきちんと自分の中で納得できる体系だった理論がなければ、政治家をやっている意味があまりないのではと思います。

【塩田】自分でここは克服したいと思っている点はありますか。

【石破】それはいっぱいありますよ。つねに言われるのは、「あいつ、付き合いが悪い」と。そんなことはないんだけど、空きの時間があれば、やはり分からないなと思う政策分野をきちんと押さえて、自分なりに克服したいと思うから、その解明に時間を割いてしまうところがあります。何も全部知っていなくてもいいのに、とよく言われますけど、少なくとも方向性すら見出せない分野があるというのは嫌なので……。だから、結果的に付き合いが悪いという話になるのかもしれませんね。

石破茂(いしば・しげる)
衆議院議員・元自民党幹事長
1957(昭和32)年2月生まれ(61歳)。鳥取県八頭郡郡家町出身。父は建設事務次官、鳥取県知事、自治相などを歴任した石破二朗。鳥取大学付属中学、慶応義塾高、慶応義塾大学法学部法律学科を卒業し、三井銀行(現三井住友銀行)に入行したが、81年、父の死後に田中角栄元首相の強い薦めで政界進出を決意する。木曜クラブ(田中派)事務局勤務の後、86年の総選挙に鳥取全県区で初当選(以後、鳥取1区も含め連続11回当選)。93年に政治改革関連法案に賛成して自民党を離党し、改革の会、自由改革連合を経て新進党の結党に参加した。96年に離党し、97年に自民党に復党。2002年に小泉純一郎内閣で防衛庁長官、07年に福田康夫内閣で防衛相、09年に麻生太郎内閣で農水相を歴任した。09年、野党転落後の自民党の政調会長に。12年に安倍晋三総裁の下で幹事長となり、14年に安倍内閣で地方創生担当相に転じた。16年以後は無役。自民党総裁選は過去に2度、08年(5候補の5位)と12年(決選投票で惜敗)に出馬。自民党復党後は額賀(福志郎)派に所属したが、09年に離脱し、無派閥を経て、15年に石破派(水月会)を結成した。著書は『政策至上主義』(新潮新書)など多数。趣味は鉄道(乗り鉄)、戦前の軍艦マニア、プラモデル、こだわりカレーづくりなど多彩。若年層に隠れた根強い支持がある。
(撮影=尾崎三朗)
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