「武雄に来て見たいのは、図書館と僕です」

樋渡啓祐・佐賀県武雄市長。1969年、佐賀県武雄市生まれ。44歳。

塩田潮図書館改革が全国で話題を呼んでいます。取り組もうと思った理由は。

樋渡啓祐(佐賀県武雄市長)】僕は図書館が嫌いだったんです。入ったら、尿意と便意をもよおす。しゃべると怒られる。何でそんなに緊張を強いられなければならないのかと思っていた。その上、閉まっている時間が長い。夕方6時に閉まっていたら、仕事を持つ普通の人はあまり行けません。みんなに開放して、居心地のいい空間をつくりたい、そのためにとことん図書館のあり方を変えたいと考えていました。

そんなとき、2年前にテレビ東京の番組「カンブリア宮殿・村上龍の経済トークライブ」で、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブの増田宗昭社長と東京の代官山の蔦屋書店の特集を見ました。それで代官山の蔦屋書店に飛んでいった。そのとき、たまたま増田社長が路上にたたずんでいたので、「図書館をお願いします」と言ったら、「承りました」と言ってくれました。

【塩田】TSUTAYAに図書館の運営を頼んだら、どんな変化が起こると思いましたか。

【樋渡】あの居心地のいい空間がいいなと思った。田舎って居心地がいいけど、公共施設となると、なぜかすごく居心地が悪い。公共施設で田舎の居心地のいい空間を体現したいと思っていたが、僕にも市の職員にもそのすべがなかった。であれば、できる人にお願いしようと思った。僕にとって、代官山の蔦屋書店がすごくいい空間だったので、あれ以上の空間をつくってもらうようお願いしました。

TSUTAYAのほうは、図書館をやりたいと思っていたところに、最初に僕が来た。増田社長が僕に直接、「私もやりたいと思っていました」とおっしゃいました。「図書館と病院が最後に残された住民サービス」ともおっしゃった。その後のいきさつは、最近出した『沸騰!図書館』に詳しく書きましたが、1年後には何とかオープンまで行きつけました。

【塩田】樋渡さん自身は、図書館は何のためにあるとお考えですか。

【樋渡】図書館の目的はいくつもあります。一番大きいのは教養や情報の共有でしょう。もう一つは、気持ちの良い空間をつくること、図書館は無料の貸し本屋ではありません。さらに大きくとらえれば、公共空間こそ、生き残りをかけた地方自治体の大きな武器になる。だから、今、全国からたくさんの人たちが視察にやってきます。武雄に来て、見たいのは図書館と僕です。