ホンダ車のセールスから実質的なビジネスキャリアをスタートさせた林文子さん。ライバルとの販売台数競争に勝つために夜中の12時近くでも買い替え時期の顧客の家にセールスに行ったというような“武勇伝”には事欠かない。しかしここで注目すべきなのは、林さんが、夜中に訪問しても嫌な顔をされないほど「共感と信頼」ができる関係を顧客との間に築いていたということだ。
「私は今、横浜市政を担当させていただいて、この12月に中期4カ年計画をまとめるんですが(※雑誌掲載当時)、サブタイトルを『市民と歩む「共感と信頼」の市政』としたんです。人と人の間で共感と信頼を築くために行うのが気配りだと思うんです。民間の経営も、行政も、人と人との共感と信頼がなければいい仕事はできません」
ホンダからBMWへ転身し支店長となり、さらに数社の社長職を経験し、ダイエーの会長兼CEOに就任した。どんな職種、地位に就いても、林さんは「共感できて信頼できる人間関係をつくること」を通じて成果を出してきた。
「それが私の信念なので、結果的には新しい職場の人たちとわかり合えたのだと思います。市長は選挙で選ばれてポンと入ってきちゃうので、職員の皆さんは私がどんな人間なのかわからない。それでも市民に選ばれた市長なので、彼女の言うことには従おうと動いてくれます。でもそんな義務感で働いてもらうのではなく、市民の皆さんの幸せのために一緒にやっていくという気持ちになってもらう必要があります」
そこで林さんは職員にまずは「自分」を知ってもらうことから始めた。ダイエー再建時に各店舗を回ったように、横浜市の施設や職場をそれぞれ訪問して職員と話をした。
「市長といえども完璧な人間ではないのですから、これはわからない、だから教えてくださいねという気持ちを持つべきです。私はわからないことはわからないと言うし、助けてもらったら本心から部下の方々に『ありがとうございます』とお礼を言う。ところがリーダーシップを取る人は完璧でなくてはならないと思い込み、弱みは見せられないと虚勢を張りがちなんです」
ではどうすれば人を動かす心配りができるのだろう。