住宅が増えても遠くの客は呼びにくい

建物が古くなる一方で、周囲の街並みは変わった。旧モリシアの南西側には、かつて畑だった「奏の杜」の住宅地が広がる。約35ヘクタールを対象に2007年度から土地区画整理事業が進み、駅に近い側には商業・サービス施設、その外側には住宅が並ぶ街になった。

【図表】南口の正面にモリシア、南西には住宅地が広がる
図表=プレジデントオンライン編集部
JR津田沼駅南口の正面に旧モリシア津田沼があり、南西には住宅地「奏の杜」が広がる。取材した洋菓子店ラ・シェールは南口側、珈琲豆のおおつかは北口側にある

習志野市の人口は、2026年9月末時点で17万5396人と、前年同月より370人多い。ただし、この数字から旧モリシア周辺の住民や買い物客の増減まで読み取ることはできない。店主たちは客の変化をどう感じているのか。

ラ・シェールの店主は、近隣住民が来店してくれる一方、遠方から客を呼ぶのは難しくなったと話す。店主は、周辺に大型商業施設が増え、車で買い物に行く選択肢が広がったことを指摘する。津田沼駅の北口と南口を車で行き来しにくいことも、課題に挙げる。

北口で「珈琲豆のおおつか」を営んでおり、船橋市前原商店会の顧問を務めている大塚智明さんは、津田沼を「いまでも活気はあるし暮らすにはいいんだけど、1日は過ごせない」と語った。遊んで過ごす場所が少ないと感じる一方、新しい映画館ができれば、客が街に滞在する時間も延びると期待している。

二人の話からは、近隣住民の日々の買い物に応えることと、遠方からも客を集めることの違いが見えてくる。住民が増えるだけで、かつての集客力まで戻るわけではない。駅前の店には、津田沼まで出かけたくなる理由をつくることも求められている。

52階建て計画を止めた建築費の壁

遠方の客を呼び戻す難しさとは別に、旧モリシアの建て替えには建築費の問題が生じた。当初は、劇場、商業施設、住宅、オフィスなどが入る地下2階・地上52階の複合施設に建て替える計画で、2024年10月に都市計画が決定した。

しかし、野村不動産が2025年1月に市へ提出した文書によると、工事を担う事業者の応募は1社にとどまり、その提案額は予定額を大幅に上回った。同社は事業者を選定できず、習志野市に今後の対応について協議を申し入れた。施設が閉館した同年3月より前に、当初の予定で進めることが難しくなっていた。

同年5月、野村不動産は建築費の動向などを見通せないとして、市に再開発の延期を申し入れた。同社は事業を取りやめる意思はないとしているが、建て替えの時期は決まっていない。

では、建て替えを待つ間、元の建物で営業を再開できないのか。同社が2026年3月に市へ提出した文書によると、建物の調査では、電気設備や給排水・空調の配管、防災機器などに、多数の不具合や老朽化が見つかった。同社は、営業する範囲を限っても長期間の改修が必要だと判断し、2026年5月から2028年8月までの工事を予定している。

建て替えには高額な建築費がかかり、既存建物での営業再開にも設備の改修が必要だ。再開発を延期しても、すぐに元の営業へ戻れる状態ではなかった。

【図表】建て替えは未定、一部再開にも約3年半
図表=プレジデントオンライン編集部
旧モリシア津田沼の既存建物の利用。商業部分は2025年3月の閉館から一部再開まで約3年半かかる予定で、建て替えの時期は決まっていない