65歳以上・5000人の歩数を25年間毎日記録
群馬県中之条町で始まったこの研究では、群馬県中之条町に住む65歳以上の住民約5000人を対象に活動量計を身につけていただき、歩数だけでなく、歩く強度、睡眠、食生活、病気の有無など、生活全体を長期的に追跡してきました。このうち約2000人には、血液検査や遺伝子解析を行い、さらにそのうちの約1000人には身体活動計を1日24時間、1年365日装着していただきました。
身体活動計は、定期的に回収します。1日18時間以上(少なくとも7時〜19時の9時間を含む)を装着していること。また1年間に9カ月以上装着しているという条件を満たしたものだけが研究(分析)対象です。最終的に、95%以上が対象となったことで、世界では「奇跡の研究」と呼ばれました。
●1日に何歩歩いたのか
●どのくらいの強度で歩いたのか
●どんな病気になったのか
●認知機能はどう変化したのか
こうしたデータを、毎日記録し続けたのです。これは世界的に見ても非常に珍しい研究でした。
健康に関する多くの研究では、「運動していますか?」というアンケート調査が中心です。しかし人間の記憶は曖昧ですから、「けっこう歩いています」と答えていても、実際にはあまり歩いていないこともありますし、「けっこう」では数値化することができません。
そこで中之条研究では、その曖昧さをなくし、「本当に歩いている歩数」を活動量計によって客観的に測定したのです。すると、非常に興味深いことが見えてきました。
それは、ただ歩けば良いというわけではなく、さらに言えば歩数だけでは足りないという事実でした。
私たちはつい、「今日は1万歩も歩いたから大丈夫」と考えがちですよね。しかし、健康効果を左右していたのは、歩く量だけではありませんでした。重要だったのは、歩く強度。特に健康にとって効果が大きかったのが、「少し息が上がる程度の速歩き」でした。
つまり、ゆっくり散歩するだけではなく、「やや速く歩く時間」を含めることが、脳や身体に大きな変化をもたらしていたのです。
1日に必要な歩数と運動強度
そして研究を続ける中で、ある1つの基準が見えてきました。それが、「1日8000歩、そのうち20分の中強度運動」。
これが、脳や身体の健康維持において、非常にバランスの良いラインだったのです。歩けば歩くほど健康になるという単純な話ではないこと、歩数が一定以上になると健康効果は頭打ちになることもわかってきました。
人間には、「脳と身体が最も整いやすい歩き方」が存在していたということです。
さらに中之条研究では、
●認知症
●高血圧
●糖尿病
●動脈硬化
●うつ
●骨粗しょう症
など、多くの病気と歩行習慣との関係も見えてきました。私は長年、この研究を続けながら、改めて強く感じています。歩くことは単なる移動手段ではなく、脳を守り、身体を守り、人生そのものを支える土台であるということ。
さらに、その効果は特別な人にだけ与えられるものではありません。年齢も関係ありません。高価な器具も必要ありません。必要なのは、正しく歩くこと。
本稿では、中之条研究で実際に見えてきたデータをもとに、
「本当に脳に良い歩き方とは何か」
「なぜ速歩きが重要なのか」
「どれくらい歩けば病気予防につながるのか」
について、さらに具体的にお伝えしていきます。

