利上げでも消えないユーロ安圧力
今後のユーロ相場を考えるうえでは、こうした欧州固有の下落圧力と、ECBの追加利上げによる上昇圧力との綱引きが重要になる。中東情勢が長期化し、冬場のガス需給逼迫や資源価格の高止まりが続けば、エネルギー価格の上昇が賃金やサービス価格に波及する「二次効果」への警戒が高まる。そうなれば、物価安定を責務とするECBは追加利上げでの対応を求められ、このことが米欧金利差の縮小を通じてユーロを下支えする可能性がある。
ただ、ECBの利上げによって金利面ではユーロ買い材料が生じても、エネルギー価格高騰による交易条件の悪化や実質所得の減少、景気の下押しが同時に進めば、ユーロにとって必ずしも一方向の上昇材料にはならない。さらに、利上げがフランスなど財政懸念国の国債利回りを一段と押し上げれば、利払い負担の増加を招き、金融引き締めそのものが財政不安を増幅する可能性もある。
年末から2027年にかけては、フランスの2027年予算協議や格付け判断に加え、11月29日のスペイン総選挙、来春のフランス大統領選挙、ドイツでのメルツ政権の改革遂行能力、イタリア総選挙に向けた政局など、欧州の主要国で政治・財政を巡る重要イベントが相次ぐ。
注意が必要なのは、今回指摘した三つのリスクがそれぞれ独立しているのではなく、互いに増幅し合う可能性があることだ。エネルギー価格の高止まりがインフレを押し上げれば、ECBは金融引き締めの長期化を迫られる。それがフランスなど財政懸念国の金利上昇や利払い負担の増加につながれば、財政再建は一段と難しくなる。財政再建に伴う歳出削減や負担増への反発が政治不安を強めれば、必要な構造改革や財政調整はさらに進みにくくなる。
円の「一人負け」が和らいでも…
足元のユーロ安は、単なる米国の金利先高観の裏返しではない。エネルギー純輸入地域という経済構造、財政への信認低下、主要国の政治的不透明感という欧州固有の三つのリスクが同時に高まり、互いに絡み合い始めている。ECBの追加利上げによる金利面からのユーロ下支えが期待される一方、こうした欧州固有のリスクが沈静化しない限り、ユーロには当面、下押し圧力が残りやすい。
今回のユーロ安は、日本にとっても他人事ではない。日本もユーロ圏と同じくエネルギーの純輸入国であり、資源価格の高騰は交易条件の悪化や実質所得の流出を通じて円の下押し要因となる。加えて、日本は巨額の政府債務を抱えており、財政への信認が揺らげば、長期金利の上昇や通貨安を通じて経済・金融市場に負担が及ぶ点でも、欧州の経験は示唆的だ。
もちろん、自国通貨建てで国債を発行し、国内投資家の保有比率も高い日本とユーロ圏各国では事情が異なる。それでも、通貨の信認が金利差だけでなく、エネルギー構造や財政運営、政治の政策遂行力にも左右されるという点は共通する。足元で円の「一人負け」が和らぐとしても、それが日本経済の強さによるものではない。
円の持続的な安定には、金融政策の正常化だけでなく、エネルギー調達力の強化、財政への信認維持、成長力を高める改革が欠かせない。
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