主要4カ国で重なる政治リスク

第三は、欧州主要国で同時に高まりつつある政治リスクである。これまで市場の関心はフランスとドイツに集中してきたが、ここにスペインの前倒し総選挙と、2027年に総選挙を控えるイタリアが加わった。

フランスでは2027年春に大統領選挙が行われる。各種の世論調査では、極右政党・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏が初回投票で30%以上の支持を集め、圧倒的にリードしている。最近では決選投票の世論調査も、ルペン氏の勝利を示唆するものが増えている。選挙後の政権の財政運営やEUとの関係がどう変化するかを巡る不透明感は、今後も金融市場の不安要素となる。

ドイツでは9月に行われた旧東ドイツ地域の州議会選挙で、右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が4割前後の支持を獲得して第一党となった。AfDが大幅に議席を増やしたことで、同党との連立を拒否する既成政党が安定した州政府を樹立することが難しくなっている。

問題は、政治的な不安定化がドイツの構造改革を難しくすることである。構造不況に陥ったドイツ経済は、歴史的な財政政策の転換により、循環的には回復軌道に戻りつつある。しかし、持続的な成長につなげるには、高い労働コストや税・社会保険負担の軽減、労働供給の拡大、年金・社会保障制度改革、規制・行政負担の削減、デジタル化、インフラ投資の迅速化などの構造改革が欠かせない。

ところが、州議会選挙での相次ぐ敗北を受け、メルツ政権への評価は一段と厳しくなっている。最近の世論調査でも、「メルツ首相の仕事に満足している」との回答は10%にとどまった。メルツ首相の求心力低下とAfDへの支持拡大によって、給付削減や負担増、労働市場・年金改革など、国民に痛みを求める改革を実行する政治的資源が失われる恐れがある。

2025年12月5日、欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、ドイツ連邦首相のフリードリヒ・メルツ氏を欧州委員会に迎えた
2025年12月5日、欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、ドイツ連邦首相のフリードリヒ・メルツ氏を欧州委員会に迎えた(写真=© European Union, 2026/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

不透明感が欧州経済の重石に

そこに新たに加わったのがスペインである。サンチェス首相は10月5日、議会を解散し、11月29日に前倒しで総選挙を実施すると発表した。2027年までの任期を全うするとの従来方針を転換した背景には、少数与党による議会運営の行き詰まりがある。住宅対策を巡る法案の否決などを通じて、地域政党を含む複数政党の支持に依存する政権運営の難しさが改めて浮き彫りとなった。好調な景気が続いてきたスペインでも、選挙後に安定した政権基盤が形成できるかが新たな不確実性となっている。

さらに、イタリアでも2027年の総選挙をにらんだ政治の動きが活発化している。議会では、現行の小選挙区と比例代表を組み合わせた制度を比例代表中心に改め、一定の得票率を獲得した政党・連合に多数派ボーナスを付与する選挙制度改正が審議されている。世論調査の結果からは、新たな選挙制度の下でもメローニ首相が率いる右派連合が敗れ、政権を明け渡す可能性が示唆される。財政リスクが意識される中での左派政権誕生に注意が必要となる。

今回の特徴は、ドイツ、フランス、イタリア、スペインというユーロ圏の主要4カ国で政治的な不透明感が同時に高まっていることである。個々の政治イベントが直ちにユーロ売りにつながるとは限らないが、財政再建や構造改革を進める政策遂行能力への疑念が広がれば、欧州資産全体に対する投資家の要求リスクプレミアムを高め、ユーロの重石となり得る。