司令長官も幕僚もみんな捕虜になった

そのため、語ることと語らないことは周到に分けられ、たとえばさきに登場した第二艦隊の参謀・佐藤鉄太郎の人となりにふれ、佐藤が伊庭想太郎いばそうたろうから心形刀しんぎょうとう流の極意を授かったエピソードを披露しますが、伊庭が星亨とおるを刺殺した人物であることについては、ふれていません。

日本海という広大な洋上において、ロシア側の主将のロジェストウェンスキーとその幕僚がぜんぶ捕虜になったのである。海戦史上、類のないことであった。(8‐214)
成田龍一『司馬遼太郎の幕末・明治『竜馬がゆく』と『坂の上の雲』を読む』(朝日文庫)
成田龍一『司馬遼太郎の幕末・明治『竜馬がゆく』と『坂の上の雲』を読む』(朝日文庫)

たしかに、日本海海戦は日本の勝利でした。28日、あちこちでロシア側の「残艦」が発見されますが、「一、二の例外のほかはいずれも降伏せず」撃沈されます。バルチック艦隊は、旗艦スワロフをはじめとして、戦艦6隻、巡洋艦4隻など19隻が撃沈、戦艦2隻をはじめ5隻が捕獲され、遁走に成功したのは小型巡洋艦など数隻でした。ロジェストウェンスキーと幕僚は捕虜となります。

日本海海戦は、「国民国家を成立させていた」日本と「王朝のままの状態」のロシアとの戦いであった、というのが司馬の解釈です――ロシア海軍の士官は「王朝の構成者」ですが、水兵は「民衆」であり、「民衆が政治をにない、国家の安危を共同に分担するという政体ができない限り、近代にあっては他国と近代戦をやるというのは不可能であるかもしれなかった」と、司馬はロシア海軍の敗戦を総括しています。

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