「信なくんば立たず」の本当の意味

そこで重要になるのが、『論語』の「民、信なくんば立たず」である。社会の資源を長期に預かるには、量と品質、所有者の権利を確かにする信頼が欠かせない。

「素材を売る会社」から、「社会が資源を使い続けられるようにする会社」へ。その姿を目指すなら、今日の投資先も、製造設備だけでなく、回収網、資源を追跡する情報基盤、品質保証へと広がる。古典から存続の条件を読み、それを未来の事業の姿に翻訳するのである。

田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)
田中道昭『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)

『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)や『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版)などの著作では、『孫子』の「五事」を現代企業の分析に応用した。道・天・地・将・法という観点から、企業の目的、時機や環境、競争の場、リーダー、組織の仕組みを考える。古典の言葉を現代の事業に照らして読み直すことで、個別の製品や売上だけでは見えない戦略が浮かび上がる。

この方法は、日本経済新聞電子版の「Think!」エキスパートとしての投稿や雑誌への寄稿、テレビでの解説にもつながっている。今年、プレジデントオンラインで古典をモチーフに執筆した5本の記事では、政治の暴走から、その修正、覇権の変化、社会の回復、異なる相手との協働へと、問いを広げてきた。具体的に振り返ってみたい。

なぜ社会は過激な指導者を求めてしまうのか

田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版)
田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版)

1月10日の記事〈なぜ世界中で「過激な独裁者」が愛されているのか…700年前の古典が暴く「エンタメ化した政治」の残酷な帰結〉では、トランプ大統領と、その過激な言動を支持する社会を明確に念頭に置いた。ローマ皇帝ネロとダンテ『神曲』を手がかりに問うたのは、権力者の振る舞いと、それを歓迎する側の心理が、どう互いを強めていくのかという問題だった。

執筆の直接の背景にあったのが、冒頭で触れたベネズエラへの攻撃である。現地で報道に接し、テレビで解説するなかで、トランプ大統領が力によって他国に介入する姿に、古典に描かれた権力と人間の欲望の構造を重ね合わせていた。

社会の不安が高まると、人々は複雑な問題に単純な答えを求める。そこへ、敵を名指しし、解決を断言する指導者が現れる。SNSでは、その強い言葉が丁寧な政策説明よりも注目を集めやすい。さらに議会や司法など、権力を点検する仕組みが弱まれば、過激さが支持を生み、その支持がさらに過激さを促す循環ができる。