先生がいない。椅子さえも足りない。フランスでは10月ごろから、教育改善を訴える中高生の大規模デモが相次いでいる。フランスでいま何が起きているのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「同じ時期、フランスの10年物国債の利回りは一時5%を超え、2002年以来の高さをつけた。教室にも、国家の財布にも余裕がない。日本人にとっても他人事ではない」と指摘する――。
デモの様子=2026年10月13日
写真=Courdji Sebastien/ABACA/共同通信イメージズ
全国の教育制度の予算削減に抗議するため、プラカードを掲げて街を練り歩く数千人の高校生や抗議者たち=2026年10月13日、フランス・リール

教師不足で授業も満足に行えない

9月下旬、パリ郊外クレテイユのサン=テグジュペリ高校で、生徒たちが声を上げた。先生が足りず、授業が行われない。抗議は瞬く間に全国へ広がった。パリ郊外パンタンの15歳の生徒はロイター通信に、1クラスに35人が詰め込まれ、椅子さえ足りないと語っている。

田中道昭『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)
田中道昭『古典で読み解く! 10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版)

米誌タイムによれば、仏教育省の集計で、2024~25年度、公立の中等教育では授業時間の約10%が実施されなかった。全国一斉の抗議行動の日には、参加者が25万人を超え、パリだけで約5万6000人に達したと内務省は発表した。司法省によれば、抗議が始まってから拘束された人は6000人を超え、その87%が未成年だった。授業が妨げられた学校は、1週間で180校から500校以上に増えた。

同じ時期、金融市場も揺れていた。10月2日、フランスの10年物国債の利回りは一時5%を超え、2002年7月以来の高さとなった。その後の高値は5.03%に達している。ドイツ国債との利回り差も1.5%ポイントを超え、ユーロ危機さなかの2011年以来の大きさに広がった。いまやフランスの利回りは、かつて危機の当事国だったスペインやイタリアを上回る。

「FROGSトレード」という皮肉

財政の数字も重い。政府債務は6月末時点で国内総生産(GDP)比119%と、1946年以降で最も高い。財政赤字は2026年にGDP比5.4%の見通しで、10月1日に発表された2027年予算案はこれを5%に抑える目標を掲げたが、市場は歳出削減の実効性に疑問の目を向ける。2027年の国債発行計画は過去最大の約3400億ユーロにのぼり、利払い費だけでGDPの約3%を占める。市場では、フランス国債の取引を「FROGSトレード」と呼ぶ皮肉まで出回る。「肥大化したフランス政府と社会保障(French Oversized Government and Social Security)」の頭文字である。

教室には先生が足りず、国家の財布には余裕がない。そして2027年春には大統領選挙が控える。2023年に62歳から64歳へ引き上げた年金の支給開始年齢は、その実施がいったん凍結された。大統領選の世論調査で首位に立つ国民連合のマリーヌ・ルペン氏は、支給開始年齢を引き下げると訴える。2位圏につける急進左派・不服従のフランスのメランション氏は、債務の再交渉を唱える。

街頭の若者、上がり続ける金利、そして国家の保護を約束する政治家。この3つを一つの構図として読み解く手がかりを、約200年前に一人のフランス人がすでに書き残している。