「寝なきゃ」ではなく「諦めて起きよう」

不思議なことに、これで眠れるようになる人もいます。「眠ろうとする努力」を取り去ると、それを支えていた不安(寝なければ、寝なければ)も、同時に消えます。不安が消えれば、眠たくなって勝手に眠ってしまう。

外来でも、不眠の方に「今夜は寝なくていいですよ」と伝えると、半分は冗談かと笑われるのですが、これが効くのです。私自身も実践している方法です。

なお、不眠に対する心理療法の標準治療は、認知行動療法(CBT‐I)です(※2)。本来まず検討すべきはこちらです。

逆説志向療法は、研究上一定の効果が示されているものの、標準治療であるCBT‐Iに代わる第一選択とまでは言えません。長引く不眠や日中の生活への影響がある場合は、医療機関に相談してくださいね。

眠れない夜は、「寝なきゃ」と思うのをやめる。代わりに「今日は諦めて起きてよう。最悪、明日午前休を取ろう」と思ってみる。布団の中で、本気で起きていようとする。すると、皮肉なことに、眠気がやってくることがあります。

夜の準備は、昼から始まっている

逆説志向療法と並んで、眠れない人にもう1つ伝えたいのが、カフェインとアルコールの話です。

カフェインの半減期は、5〜6時間あります。夕方17時に飲んだコーヒーや紅茶1杯のカフェインは、寝る前の23時にも、まだ半分は身体に残っている計算です。

午後遅い時間のカフェインは、「効いている気がしない」レベルでも、眠るまでの時間を延ばし、夜中に目が覚める回数を増やし、睡眠の質を確実に下げます。

白いカップにコーヒーを入れる
写真=iStock.com/muccarina
※写真はイメージです

アルコールも厄介です。寝る前にお酒を飲むと「寝つきがよくなる」のは事実ですが、その後の睡眠の後半が浅くなります。中途覚醒が増え、レム睡眠が減り、結果として「寝たはずなのに疲れている」朝を迎えやすくなります。

「夕方以降のコーヒーや紅茶」と「寝る前のお酒」。この二つを見直すだけで、寝つきが目に見えて変わる人が多くいます。

私自身は知識としてわかっていても、お茶が大好きで、夜でも濃い緑茶を飲んでしまいますし、お酒も飲んでしまいます。夜中に目が覚め、翌日も疲れが取れていない日が多いのです。

頭ではわかっていても、行動を変えられない日はあります。知識があることと、衝動に毎回勝てることは、別なのかもしれません。ただし、知識があることで勝率は上がります。

※2 Qaseem, A., Kansagara, D., Forciea, M. A., Cooke, M., & Denberg, T. D. (2016). Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Annals of Internal Medicine, 165(2), 125-133.