「寝れば忘れる」は半分ウソ

嫌なことがあった日は、布団にもぐって、さっさと寝て忘れてしまおう。誰もが一度はやる「ふて寝」です。この作戦は半分は正解で、半分は逆効果です。

物部真一郎『最新科学でわかった! 気分のいい人がうまくいく』(SBクリエイティブ)
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正解のほうから。眠りには、その日の出来事を整理して、長く残る記憶につくり替える働きがあります。そのため、感情の記憶をうまく処理して、出来事の中身は残したまま、そこに刺さっていた感情を和らげてくれると考えられています(※3)

睡眠の後半に現れる「レム睡眠」の最中は、脳内のノルアドレナリン(ストレスや覚醒に関わる神経伝達物質)の濃度が著しく低下します。

この「ストレス化学物質が極めて少ない安全な状態」で記憶が再処理されることで、「出来事の記憶」は残しつつ、それに伴う「激しい感情(苦痛や恐怖)」だけが剥がれ落ちるように減弱すると考えられています。

「あんなに腹が立ったのに、ひと晩寝たら、まあいいか、と思えた」

それは気のせいではなく、寝ているあいだに、脳がちゃんと感情を消化してくれた証拠です。だから、つらい日ほど、眠ること自体はとても大切です(つねに、寝ることは非常に重要です)。

布団に入る前に、高ぶりをほんの少し冷ます

一方で、強い感情を伴う記憶は、睡眠によって固定され、あとから意図的に弱めにくくなる可能性もあります。ある研究では、睡眠後の感情記憶は、覚醒を続けた場合より抑制が難しくなることが示されました(※4)

ただし、これは特定の実験条件で得られた知見であり、「喧嘩したまま寝ると必ず翌朝もっと腹が立つ」とまで一般化することはできません。眠る前に少し気持ちを落ち着ける、という実践的な工夫として受け取ってください。

私自身、これはよくやります。

腹が立った夜に、ヤケになって早々と布団に入り、翌朝、すごく嫌な気持ちが残った状態で起きる。「寝たのに、なんでだ」と思っていましたが、嫌な気持ちが焼き付けられてしまっていたのです。

腕で目を覆いながら眠ろうとしている不眠の女性
写真=iStock.com/MergeIdea
※写真はイメージです

嫌な気持ちを焼き付けてしまうことを緩和する方法はあります。布団に入る前に、高ぶりをほんの少し冷ますことです。

完全に鎮める必要はありません。たとえば、「長く吐く呼吸」を数回する。ぬるめのお風呂に少し浸かる(私の場合はスーパー銭湯です)。頭の中でぐるぐるしている怒りを、スマホのメモにそのまま殴り書きして、いったん外に出してしまう。

※3 van der Helm, E., Yao, J., Dutt, S., Rao, V., Saletin, J. M., & Walker, M. P. (2011). REM sleep depotentiates amygdala activity to previous emotional experiences. Current Biology, 21(23), 2029-2032.
※4 Liu, Y., et al. (2016). Memory consolidation reconfigures neural pathways involved in the suppression of emotional memories. Nature Communications, 7, 13375.