生産性上昇率は1%に満たない
では、もう一方の付加価値の上昇はどうだろうか。
日本生産性本部によれば、2024年度の実質労働生産性上昇率は時間当たり・一人当たりとも前年度比+0.2%。四半期ベースでは6四半期連続のプラスで、2000年以降で最も長い上昇局面だ。だが、その水準は0%近傍にすぎない(※2)。
さらに言えば、2024年度に最も生産性が伸びた産業は運輸業・郵便業(+3.8%)だった。これもまた理由は時間外労働の上限規制にあるだろう。日本で生産性を最も押し上げたのは、生成AIの業務利用率が最も低い水準の業種である。
一方で、アメリカの統計はより良好だ。BLSによれば、2019年10〜12月期以降の非農業部門労働生産性は年率2.1%で伸びており、前の景気循環を明確に上回る。2026年1〜3月期も、前年同期比で2.8%の上昇であった。
この上昇はAIによるものなのだろうか。ここは各専門機関の分析でも、意見が分かれている。
ダラス連銀は、AI利用度の高い国ほど「AI露出度と生産性成長の相関」が強まることを国際比較し、AI利用の少ないドイツやスペインでは、AI露出セクターの生産性も低いとする(※3)。その一方で、カンザスシティ連銀は、AIの導入は産業全体で生産性成長の加速と一致するものの、生産性全体の増加をほとんど説明しないと分析する(※4)。
MITのダロン・アセモグルは、AIによる今後10年間の全要素生産性(TFP)の押し上げは累計0.66%を超えない(年率に直せば0.06〜0.07%程度)と推計していた(※5)。サンフランシスコ連銀が分析した全要素生産性は、2026年第1四半期までの4四半期でわずか0.07%しか伸びていないとし、実際に、その推計が当てはまる水準になっている(※6)。
※2 日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2025」(2025年11月公表)
※3 Scott Davis, “International comparisons show AI effect on productivity,” Dallas Fed Economics, Federal Reserve Bank of Dallas, July 7, 2026.
※4 Nida Çakır Melek & Sydney Miller, “A New U.S. Productivity Chapter? What Industry Data Say About AI,” Economic Bulletin, Federal Reserve Bank of Kansas City, February 11, 2026, pp.1-4.
※5 Daron Acemoglu, “The Simple Macroeconomics of AI,” NBER Working Paper No.32487, 2024
※6 Serdar Ozkan, Aakash Kalyani & Nicholas Sullivan, “AI and Productivity: What Firms Are Saying on Earnings Calls,” St. Louis Fed On the Economy, July 31, 2026
AI普及の途上だからなのか
一方で、AIブームそのものが需要側から統計を押し上げている可能性が高い。
第一生命経済研究所によれば、米国の情報処理機器とソフトウェアへの投資は2025年7〜9月期でGDP比4.5%に達し、ITバブル期に匹敵する(※7)。AIが「効率性を高めている」というよりも、AIが投資として大きな需要を生んでいる。その2つはいまの統計では切り分けられない。
総労働時間は減らず、生産性の上昇も明確な形ではでてきていないか、かなり控えめである。
これが日本とAI先進国・アメリカにおける現時点のAIの「効果」のようである。はたしてこれは「いまだにAIが普及途上」だからなのだろうか。それが正しいならば、今後は上昇していくことになるが、それは本当だろうか。
※7 前田和馬「米国:雇用なき成長の背景 ~労働生産性の上昇orGDPの過大評価?~」第一生命経済研究所(現・第一ライフ資産運用経済研究所)

