AIの効率化が生産性に結びつかないワケ
現場では、たしかに作業時間が浮いている実感があるが、その効果は組織レベル、産業レべルでは現れない。ミクロで観測される効果が、マクロに到達しない。筆者はこれを、AIにおける「マクロとミクロのミッシング・リンク問題」と呼んでいる。
AIがマクロとミクロの効果をつなぐ上で、筆者は以下の三つの「断層」があると考えている。
第二に、AIで浮いた余白時間が価値を生まない時間に再投下されているのではないか(余白の消滅問題)。
第三に、AIで誰でも出せる成果物は、差別化が難しくなる(差別化の消失問題)。
問うべきは、AIに効果があるかどうかではない。効果が失われている場所はどこか、である。
時短の空振り――制約工程に届いていない
工場の比喩を一つだけ補助線にしよう。
エリヤフ・ゴールドラットが示した制約理論(TOC)の命題は、生産ラインの全体速度は、最も遅い工程が決めている、というものだった。制約になっていない工程をどれだけ効率化しても、ラインから出てくる製品の数は一つも増えない。むしろ仕掛品が積み上がるだけである。
この視点を借りると、AIの使われるタスクが、どんなタスクかという問題に思い当たる。
2026年調査で利用用途の上位に並ぶのは、資料・文書の作成(27.0%)、情報・文献・資料の整理や要約(25.3%)、メールや議事録の作成(23.1%)である。2025年調査でも、利用の中心は文章関連業務であった。これらが成果を加速させる工程かと問われれば、多くの職場では違うだろう。
この視点を借りると、AI活用の中心がどこにあるかが重要になる。
パーソル総合研究所の調査で利用用途の上位に並ぶのは、資料・文書の作成、情報や文献の整理・要約、メールや議事録の作成である。こうしたタスクは確かに時間を消費する。しかし、多くの組織において業績や成果を制約している工程がここにあるとは限らない。
たとえば、営業活動でみよう。営業の成否は、顧客発見、顧客理解、提案作成、社内調整、契約といった一連のプロセスから成り立っている。ここでAIを活用し、提案書作成というタスクに要する時間を50%削減できたとしよう。しかし、受注の成否を本当に左右しているのが顧客の課題理解やニーズ把握であるならば、提案書を作る速度だけを高めても売上は増えない。改善されたのはプロセスの一工程にすぎず、成果を制約している部分ではないからである。
つまり問題は、成果を決めているボトルネックではないタスクを効率化していることである。制約工程に届かない時短は、個人には効率化として認識されても、組織成果や業績の向上としては現れにくい。

