余白の消滅――浮いた時間が日常業務に充てられる
2つ目の問題は、「浮いた時間がどこに使われているか」である。
このことはほとんど調査されていないが、パーソル総合研究所の2025年調査は、生成AIを使ったタスクについて週あたり26.4分削減されていた。では、その26分はどこへ消えたのか。
その内容は、浮いた時間の61.2%が仕事に再投下されており、その中身の75.4%が「日常の業務」である。改良・再設計や探索といった業務に振り向けられる比率は低い。つまり、浮いた時間はその多くが日常業務の再生産へ、知らず知らずのうちに還流している。
理屈としては珍しくない。仕事は、与えられた時間を埋めるまで膨張するという「パーキンソンの法則」を思い返してもよいだろう。再投下先を誰も設計しなければ、浮いた時間は最も引力の強い場所、すなわち目の前の反復業務へ落ちて当然である。従業員には、残業手当を減らしたくないという合理性もある。
AI学習や教育に時間が取られている
また、AIは時間を削ると同時に、新しい仕事を連れてくる。
AI活用に伴う業務課題を見ると、「欲しい回答を得るために、指示を何度も出し直すことがある」49.7%、「業務の前提や背景を、生成AIに入力するのが負担である」38.0%、「生成AIの出力を確認・修正する手間が大きい」35.2%。そして「生成AIを使うことで、かえって作業時間が増えることがある」が30.3%にのぼる。また、これらの課題は、AIをたくさん使うユーザーほど大きくなる。
また、AIには普及のコストもある。2025年の調査では、ヘビーユーザーほど学習や人への教育の時間に充てていた。組織の中で最もAIを使う人が、最も多くAIに時間を使い、最も多く人に教えている。
このような付加的なタスクに目が向かないことで、そもそもAIで浮いた時間の量そのものが過大に見積もられている可能性もある。
AI評価機関METRが2025年に実施した実験では、経験豊富なオープンソース開発者がAIツールを使った場合、作業の完了時間はむしろ19%長くなったが、被験者たちは作業を終えたあとに「20%速くなった」と信じていた(※8)。この研究は少数の実験という限界がある一方で、そもそもの働き手の「速くなった」という自己申告の当てにならなさを示すものだ。これは、「消滅どころか、そもそも余白が生まれていない」可能性を示唆する。
※8 Becker, J., Rush, N., Barnes, E., & Rein, D., “Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity,” METR, 2025年7月


