※本稿は、和田秀樹『ラーメンと健康 「炭水化物=悪」ではない』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
脳卒中トラウマが生んだ「塩分」の誤解
日本の減塩指導は、個々の生活習慣や体調を考慮する余裕がないほど、一律に厳しく行われている印象を受けます。もちろん、WHOが掲げる「食塩摂取量1日5g未満」という目標は、一つの理想的な指標でしょう。ただ、その高い理想と、日本人の現実的な食習慣(平均摂取量約9~10g)とのあまりに大きな乖離を埋めるプロセスにおいて、本来考慮されるべき「個人の体質」や「血管の強度」という視点が置き去りにされているのではないかと私は危惧しています。
では、なぜここまで日本人は「減塩」に怯おびえるようになったのでしょうか。その理由は、前述した日本人特有の「脳卒中トラウマ」にあります。
かつて日本人の死因トップが脳卒中だった1950~80年代や、冷蔵庫が普及していなかった時代の食卓は、保存のために塩分を多用した味噌汁や漬物が主役でした。この時代背景から、「塩分を摂りすぎる→血圧が上がる→血管が切れて脳卒中になる」という単純で強烈なイメージが、国民全体の心理に深く刷り込まれてしまったのです。
実のところ、この「塩分=絶対悪」という考え方は、現代の日本人には必ずしも当てはまりません。なぜなら、過去に脳卒中が多かった本当の原因は、塩分だけではなく、血管の材料であるたんぱく質や脂質の圧倒的な不足にあったからです。
昔の日本人の血管は“薄かった”が、現代は違う
戦前・戦後の日本人は、今とは比べものにならないほど肉や卵を食べていませんでした。私は血管と血圧の関係を、よく「ゴムホースと水圧」にたとえて説明します。水圧(血圧)が多少高くても、ホースの壁(血管壁)が分厚く、しなやかで丈夫なら、ホースはまず破れません。ところが、当時の日本人は血管の材料が決定的に不足しており、弾力を失った「薄くて古いゴムホース」に強い水圧をかけているような状態でした。これでは、少しの負荷で破れてしまう(脳出血を起こす)のは当然の結果です。
ですが、戦後、日本人の食生活は劇的に変わりました。肉や魚、卵をしっかり摂るようになり、血管をしなやかに保つための材料が供給されるようになったことで、血管の質そのものが別物になったのです。しなやかで丈夫な血管を手に入れた現代の日本人に、昔と同じ塩分恐怖症をそのまま当てはめるのは、医学的な進化を無視した時代錯誤と言わざるを得ません。
現在、脳出血で亡くなる方はがんの12分の1程度まで激減しています。もはやかつてのような国民病ではありません。一律の制限によって活力を失うのか、それとも必要な栄養をしっかり摂り、多少血圧が高くても健やかに過ごすのか。その選択をするのは、他でもない私たち自身なのです。

