高齢者の「食べないリスク」のほうが怖い
その楽しみを奪ってしまうことは、塩分を数グラム減らすより、よほど健康に悪いと私は考えています。過度なストレスで食欲が落ちたり、眠れなくなったりすれば、免疫力は一気に下がります。ストレスこそが万病の元であるのに、その重要な要素を無視して、「塩分6.5gが多いか少ないか」という数字だけを問題にするのは、医学の本質を見誤っています。
加えて、この我慢の害が、より深刻な形で表れるのが高齢者です。塩分を気にするあまり、大好きなラーメンを我慢する。その結果、味気ない食事ばかりになって食欲が落ちてしまう。これこそが、老化を加速させる最悪のシナリオです。
食が細くなって低栄養になれば、筋肉が衰えるサルコペニアや、心身が虚弱になるフレイルへとまっしぐらに進んでしまいます。高齢者にとって本当に怖いのは、塩分の摂りすぎによるリスクではありません。必要な栄養素を摂れなくなる「食べないリスク」の方が、圧倒的に危険なのです。
重要なのは「塩を減らす」より「出すこと」
「塩分は気になる。でもラーメンは食べたい」
多くの日本人が抱えるこの悩みは、実はとてもシンプルな方法で解決できます。それが塩分(ナトリウム)とカリウムのバランスを整えるという考え方です。
私たちの体の中で、ナトリウムとカリウムはシーソーのような関係にあります。塩分が入ってきても、相棒であるカリウムが十分にあれば、余分な塩分を腎臓から尿として追い出してくれます。つまり、本当に重要なのは「塩分を減らすこと」ではなく、「カリウムをしっかり摂って、出す力を高めること」なのです。ところが現代の日本人は、加工食品や外食でナトリウムを多く摂りやすい一方、野菜不足などからカリウムは不足しがちです。このアンバランスこそが、問題の本質なのです。
けれども、日本の医療現場や行政はいまだに「塩を減らせ」の一点張りです。これは体の仕組みを無視した、思考停止の指導と言わざるを得ません。先ほどご紹介した大規模調査(PURE研究/2014年、医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』)においても、心血管リスクを下げる最大の鍵は単なる減塩だけではなく、むしろ「ナトリウムとカリウムの摂取比率」の改善や「適切なカリウム摂取」にあることが示唆されています。カリウム不足のまま減塩だけを強いるのは、不十分なのです。

