「静岡が遅らせている」というシナリオ

さらにトンネル工事が遅れるのは、静岡工区の場合、ほぼすべての準備工事をこれから行わなければならないからだ。濁水処理施設などの大型資機材などの搬入から始まり、作業員宿舎の建設、搬入した濁水処理施設、火薬設備などを配置した3つのヤードをつくらなければならない。

JR東海の金子慎社長(当時)は2020年5月29日の会見で突然、「6月中に静岡工区の準備工事ができなければ、リニアの2027年の開業は難しい」と発言した。

当時、準備工事は3カ月程度とJR東海は見ていた。金子発言は、静岡県が準備工事を認めれば、2027年開業に何とか間に合うという趣旨だった。

もともとの工期は「9年間」であり、2020年6月に準備工事を再開しても、順調に行って2029年に工事完了できるどうかであり、ガイドウェイ設置などでさらに延びる。それなのに、準備工事を再開すれば、2027年開業に間に合うと大騒ぎして、川勝平太知事(当時)の面会を求めた。

準備工事の再開を求めて静岡県庁を訪れた金子社長
筆者撮影
準備工事の再開を求めて静岡県庁を訪れた金子社長

JR東海は「いま準備工事に入らなければ、2027年開業は非常に厳しい状況だ。開業に待ったを掛けるのは静岡県の川勝知事である」というシナリオをつくり、2027年開業ができないのは静岡県の反対であるという発表を行った。

南アルプス工事現場までの道は険しい

川勝知事が金子社長の準備工事の要請を蹴ったことで、マスメディアは静岡県の反対で2027年リニア開業ができなくなったという報道をいまでもしている。

ただ、この騒動をきっかけに、JR東海はすべての準備工事をいまからほぼすべて行わなければならない。南アルプスの工事現場に行くのには、静岡市井川地区の外れにある沼平ゲートから静岡市管理の27.3キロの東俣林道に入る。東俣林道は脱輪しそうな崖沿いの狭隘な道路が続いている。

椹島ヤード、千石ヤードは東俣林道沿いにあるが、西俣ヤードは林道終点からさらに奥深くの西俣川沿いの特種東海製紙関連企業の私道・西俣管理道路を使う。西俣管理道路は、東俣林道よりさらに脆弱な状態で未舗装のでこぼこの道路である。