米国AIGが1人最大650万ドル(約6億2500万円)という巨額賞与を支払い、批判を集めた。この真相について、筆者は雇用契約を指摘するが、その理由と背景にあるものとは。
米国における人と組織との短期的な契約関係
米国のAIGにおける巨額ボーナス問題が大きく取りざたされている。ただ、私は、事件についての報道を見ていて、やや奇異に感じる点がある。ロイターの3月18日付記事によると、AIGのCEOは、複雑な金融商品の処理にあたり、専門知識を持つ人材を引き留めるため、賞与は必要だったと主張している。処理すべき金融商品は現在、1兆6000億ドル(約154兆円)になっており、担当幹部が退職すれば、状況はさらに厳しくなるとして、この支払いを正当化している。
確かにそういう面もあるだろう。ただ、こうした問題が現実味を帯びていたとしても、実際問題として巨額のボーナスで退職が防げるとは考えられない。それよりも、ボーナスをもらって、それから退職する確率のほうがよっぽど高いだろう。実際、3月24日付ロイター記事によると、すでに、処理にあたる中核となるフィナンシャル・プロダクツ部門から何人かの幹部社員が、退職したとの報道もある。
私は、今回の巨額ボーナスが支払われなければならなかった真相は、そういう報酬契約だったから、という単純なことではないかと思うのである。通常、米国企業の上層社員は、その多くが複数年の雇用(報酬)契約を会社と結んでおり、AIGの場合も、そうした契約が幹部社員との間に存在し、そのなかでボーナスを払うことが義務付けられていたのではないかと考えるのが自然なのである。
したがって、リサーチをしても、詳しいことはわからないので正確ではないかもしれないが、可能性として、AIGがボーナスを支払わない場合、契約不履行で訴訟が起こり、会社側が負ける可能性が高いので、そのほうがよっぽど大きな損失だと考えたと予想できる。あくまでも私の推測の域を出ないが、いうなれば、契約によって支払わなくてはならなかったというのが最も大きな理由だろう。破たんの危機にあるAIGで、巨額のボーナスで優秀な人材を引き留めることができると考えたから、これを支払ったというのはとても不思議な理由付けなのである。
ただ、私の推論が正しいとして、このことは米国における組織と人との関係について考えさせられる出来事だった。米国においては、いい意味でも悪い意味でも、組織と人との関係は、短期的な契約関係なのである。
したがって、その交換関係が成立しなくなった途端に、その雇用関係も途切れる。特に知的労働に携わる高い能力を備えた人材についてはそうである。米国の知的創造を担う人材の多くが、企業との関係を短期契約をもとにしている。