貿易戦争を誘発する危険な農政
この政策の問題は二つある。
一つは、一物一価ではなく政策で一物多価という歪みを作り上げるので、例えば飼料用として買った業者が主食用に転売すると必ず儲かるという不正を誘発する。実際にもこのような不正が行われたので、これを防止するため罰則による禁止規定を設けている(食糧法による“用途限定米穀の用途外使用の禁止”)。逆に言うと、自由な市場経済では一物多価が成立することはないので、転売禁止の規制も必要ない。
もう一つは貿易戦争の誘発である。単に減反をやめて価格を下げ輸出を増やすことにはWTO(世界貿易機関)のルール上、何の問題もない。しかし、輸出用米についての減反補助金はWTOで禁止されている輸出補助金(定義は輸出に際して交付される補助金)である。コメの関税は700%であると問題視しているトランプがWTOに提訴すると、WTOでは他の分野での対抗措置(クロス・リタリエイションという)が認められているので、彼は日本の自動車に合法的に高関税をかけることができる。
輸出競争力を失った日本米
そもそも鈴木氏が主張するように、他用途のコメの需要が増えるのだろうか?
米粉用や酒米などは、急激に需要が増えるとは思わない。期待しているのは、輸出であるが、これが増えるのだろうか?
同氏も含め農水省の役人の大きな欠点は、価格が果たす役割を理解しないことだ。何十年も農水省が作る需給計画には価格という要素がない。「価格が上がると需要が減り、下がると需要が増える」ことを理解できない。輸出についても、海外で輸出フェアを行えば輸出が増えると思い込んでいる。「価格が高いから輸出が増えない」「価格を低くしないと輸出を増やせない」ことを、理解しないのだ。
次は、日本の米価とカリフォルニア産の米価の比較である。両者の価格差が接近、時には逆転していたが、昨今の米価高騰で価格差が大幅に開いてしまったことが分かる。日本米の価格競争力が失われているのだ。

