お金持ちは、なぜお金持ちになれたのか。相続税調査のため富裕層の自宅に足を踏み入れてきた元国税専門官の小林義崇さんは「派手な成功者ではない“普通の人”が億単位の資産を築き上げられたのは2つの鉄則を守っていたからだ」という――。

※本稿は、小林義崇『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

「普通の人」が億単位の資産を築く仕組み

今から約20年前、私が新卒で東京国税局に入局したばかりの頃のことです。埼玉県和光市の税務大学校で行われた約3カ月間にわたる新人研修も最終盤を迎え、私は産課税を担当することになりました。

国税組織は、おもに4つの事務系統に分かれています。会社などの法人を扱う「法人課税」、おもに個人事業主を担当する「個人課税」、相続税や贈与税など資産関連の税を扱う「資産課税」、そして滞納者への対応を行う「徴収」です。国税職員はいずれかの系統に所属し、税務署などでその専門業務に従事するのが基本です。

私が在職していた当時、組織内で花形とされていたのは法人課税で、個人課税がそれに次ぐ人気でした。1987年に公開された伊丹十三監督の映画『マルサの女』に代表されるように、国税当局が悪質な脱税を働く経営者を追及するイメージがメディアを通じて社会に広まり、私が採用された2004年当時もまだ名残がありました。そして、「巨悪を摘発する」仕事に憧れを抱く同期の多くが法人課税を希望していたのです。

学生時代に1000万円の奨学金を借りた

しかし、私が組織内では比較的マイナーとされる資産課税部門をあえて志望したのは、「相続税がかかるほどの富裕層」という存在に、強い関心を抱いていたからです。

私は、中学生の頃に両親が離婚し、母に育てられました。経済的な余裕は決してありませんでしたが、第一志望の国立大学の受験に失敗し、次に志望していた地元福岡の私立大学に入るために月16万円もの奨学金を借りることになりました。

その奨学金も大半は学費と日々の生活費に充てられ、アルバイト代を多少家計の足しにしても、手元にはほとんど残りません。結果として、卒業時には金利も含め1000万円近い返済義務を背負うことになってしまいました。

こうした状況でしたから、裕福な家庭の同級生との間には、時折、経済的な格差を感じずにはいられませんでした。私が大学生だった頃は、折しも就職氷河期の真っ只中。同級生の中には、就職を先延ばしにするためにあえて留年したり、大学院へ進学したりする者もいましたが、当時の私にはそのような選択肢は到底ありません。また、東京などに出て就職活動をするには交通費や宿泊費が必要ですが、その資金もなく、途方に暮れる思いでした。

周りの人たちとの境遇の差から悔しい思いをすることもありましたが、不満を述べても現実は変わりません。私は、「彼らよりも高い給料の職場に、数年でも早く就職すれば、1000万円の差なんてすぐに埋まる」と自分に言い聞かせました。

「まずは奨学金を着実に返済し、人並みの生活を送れるようになりたい」「そのためには安定した収入がほしい」と考えた私は独学で公務員試験に臨み、幸いにもいくつかの省庁から内々定をいただくことができました。