「自分たちと何が違うのか」富裕層を羨望
その中で、最も初任給が高かった国税専門官の職を選び、それも勤務地に応じて支給される地域手当が手厚い東京国税局の職員になることを決めたというわけです。もちろん、縁もゆかりもない東京へ行くより、地元福岡の省庁で働きたい気持ちはありました。でも、最後までお金の心配をぬぐいきれずに上京することにしました。
「お金こそが人生を左右する」
自分の経験からそう痛感していた私は、富裕層に対して羨む気持ちとともに、「一体、自分たちと何が違うのだろうか」という強い興味を抱いていました。
そこで注目したのが相続税です。現在でこそ法改正により日本人の約1割が相続税の申告対象となっていますが、私が新人職員だった頃は、その割合はわずか4%程度。しかも相続税調査の対象となるのは、多額の財産を残した、いわば日本のトップクラスの富裕層に限られていました。
私が担当することになった相続税調査は、原則として故人のご自宅で行われます。そのため、どのような暮らしぶりだったのか、不謹慎とは知りつつも密かな期待を寄せていました。しかし、実際に足を踏み入れたご自宅は、意外にもイメージしていたような派手な家具や贅沢品は見当たらず、建物や敷地こそ広大であっても、室内は物が少なく、驚くほどスッキリしていたのです。
家族や関係者の預金口座まで細かくチェック
「税務署が来るから、財産を隠したのでは?」と勘ぐりもしましたが、そうしたケースはごく稀で、大半の方々は本当に質素な生活を送られていました。
なぜそのことがわかったかといえば、相続税調査では、生前の預金の動きを徹底的に洗い出すからです。故人が使っていたお部屋を拝見するのはもちろん、時には家族や関係者の預金口座まで調査し、不自然な資金の流れがないかを厳しくチェックします。その結果、多くの富裕層が実に慎ましい生活をしていることを実感したのです。
ただ、そうした富裕層が単なる倹約家かというと、決してそうではありません。普段は最小限の生活費に抑えていても、ここぞという時には驚くほど大胆にお金を使うことにも気づかされました。
たとえば、ある日突然、賃貸マンションを一棟丸ごと購入したり、高級老人ホームの入居一時金として1億円近いお金をポンと支払ったりする。あるいは、子や孫へ教育資金として惜しみなく援助し、地域や母校へ多額の寄付をするなど、スケールの大きな支出に驚かされることもありました。
「お金をたくさん持っている」からといって、決して「むやみやたらと消費する」わけではない。しかし、使うべき時と判断すれば、大胆にお金を使う……。
富裕層の多くのお金に対する考え方や使い方は、私たち一般の人のそれとは根本的に異なる。それが、私が相続税調査の現場で得た大きな気づきでした。

