奥へ進むと寿司店やとんかつ店。一見雑多に見えるが、落ち着いた照明に照らされて統一感のある空間が広がる。歩くたびに目に入るものが異なって、自然と本棚へと導かれる動線が設計されているのだ。
「お客さんが何を望んでいるのか」ということをよく考えて、棚の並べ方や順番も工夫してます。奥へ奥へ入りたくなるようなレイアウトで、レジへ行く導線も売り上げには大切なんですよ」
現場に任せる「出会い」のつくり方
取材の数日前、店中央のスペースで「数学が紡ぐ京都物語」という催しが開かれていた。
親子連れなど15人ほどが、自由に出入りしながら耳を傾け、イベント後には著者のサイン会も行われていた。
こうしたイベントや展示の企画・運営は、すべて店長に委ねられている。「本と出会う場」は、現場の感性から育っていく――その考え方が、この光景にもにじんでいた。
人が本と出会うために、その経験を店舗経営に生かしてきた大垣さんは、そもそも「人はなぜ本を読むのか」をこう考えている。
「今の時代に人が求めているのは、モノそのものじゃなくて『心の満足』なんです。人間関係の悩みや将来への迷いなど、誰でも何かしら抱えている。そんなときに、同じような思いを言葉にしている作家の本に出会うと、安心したり、背中を押されたりするんですよ」
最近では、企業の経営者から「社員にもっと本を読んでほしい」という相談を受けることもあるという。大垣さんが重視するのは、「読ませる」ことではない。
「『本が大事だ』と言うだけでは、なかなか手に取られません。だからこそ、休憩時間にふと目に入る場所に本を置く。気負わず触れられる環境をつくることが大事なんです。僕らは、そうした“本と出会う場”を一緒につくりたいと思っています」
本を通じて人が考え、感じ、次の一歩を踏み出す――。その循環を絶やさないことこそが、大垣書店が大切にしてきた姿勢だ。この考えは、棚づくりや空間設計、イベントの仕掛けにも一貫して息づいている。
「本と出会う場をどうつくるか」。その問いに向き合い続けてきた積み重ねが、いまの大垣書店を形作っている。


