大垣さん自身、かつて医学書を求めるお客さんから「派閥の違うこの先生とこの先生を並べない方がいいよ」と指摘されたことがあるという。その経験からも、本の並べ方ひとつで、棚の印象が変わり、書店員がどれだけ本を理解しているかも見えてしまうことを痛感した。

「店員さんの存在価値って、かなりあるんですよ。特に街の書店では、店長さんのセレクトが『お客さんの選ぶ楽しさ』を生んで、それ自体が本屋の魅力になるんです。どんなお客さんが何を求めているかを感じ取れることが、本屋を分かることだと思っています」

無人化の時代に、あえて人を置く理由

そしてもっとも重要なのは、目利きを本棚に反映できる「仕入れの力」を持っているかどうかだ。いま現実には、店員の大半が学生などのアルバイト。本好きだとしても長期の定着が難しいため「人が育たず、店づくりができない」という課題を抱えている。そのなかで大垣書店は、人件費比率がやや高くても「本がわかる社員」を多く配置する努力をしてきた。

「いい書店をつくるには、やっぱり目利きの力を持った書店員が欠かせません。お客さんのニーズを考えて本を置かなあかん、って何度も議論してきましたよ」

大垣さんは効率化だけを追いかける風潮には慎重だ。

「今は人件費削減の流れで無人レジが流行ってるし、うちも一部店舗で実験はしてるけど、僕自身はそれを推進しようとまでは思ってないんです」

棚づくりや本の並べ方、何気ない声かけひとつで、店の空気は変わる。本棚が少し乱れていれば、「ここに今、よく手に取られている本がある」と気づける。そうした小さな感覚の積み重ねが、書店という場所の質を決めていると考えるからだ。

京都本店とカフェ、お土産
筆者撮影
京都本店の内観。奥には京都肉で知られる食料品店「モリタ屋」がある

書店を“本を買う場所”で終わらせない

さらに、書店員の目利きと同じくらい大垣さんが重視してきたのが「空間づくり」だ。30代の頃から国内外の書店を巡り、ドイツやニューヨークの大型書店で感じたにぎわいと熱気は、強く印象に残っているという。

なかでも記憶に残っているのが、ドイツの街角にある小さな書店だった。わずか20坪ほどの店内に、必ずカフェが併設されていたのだ。本を置くスペースを少しでも確保したいはずの書店で、なぜカフェなのか。

理由を尋ねると、「本好きはコーヒーも好きな人が多いから」と返ってきた。その言葉が、大垣さんの胸にストンと落ちたという。当時、日本ではまだ珍しかった書店併設のカフェに、ひとつの可能性を感じた瞬間だった。

現在の「京都本店」はこの経験を発展させた形だ。著者が店内に入ると、まず目についたのは通路の中央にある京都土産の文具や雑貨。左右にはカフェとワインバーがある。静かながら人が談笑している姿があった。

京都本店とカフェ、お土産
筆者撮影
京都本店にはカフェや雑貨コーナーもある