「欲しい本」より「出会う本」を売る
この旅を通じて、大垣さんが選んだのは、効率といった「速さ」で勝つことではなく、書店だからこそ生まれる「出会い」で勝つという道だった。そこに腹をくくった。
だが、日本に目を向ければ、書店を取り巻く状況は決して楽観できるものではない。1996年をピークに、出版物の販売額は長期的に減少を続けている。全国の書店数もこの25年でほぼ半減し、「紙の本はもう限界だ」と語られることが少なくない。
この逆風のなかで、
書店、カフェなどグループ全体で50店舗、2025年8月期の売上は書店で過去最高を記録した。数字だけを見れば、順風満帆。しかし大垣さんはこの成長を「成功談」として語ろうとはしない。業界全体の縮小がまだ進んでいるからだ。
「自分には、書店を守る役割があると思っているだけなんです」
その言葉の背景には、一冊の本との出会いがある。高校時代、進路に迷っていたとき、偶然手に取った高野悦子さんの『二十歳の原点』(新潮社)。迷いや葛藤を抱える言葉に、自分を重ね、「もう一度前に進もう」と思えた。
「本に救われた経験があるからこそ、本と出会う場所をなくしたくない」
思いがけず手に取った一冊が、考えを揺さぶり、新しい視点をもたらす。その出会いが生まれる場こそ、リアルな書店の価値だと考えている。
では、その価値をどうすれば社会のなかに残し続けられるのか。理念だけでなく、現実の経営としてどう成立させてきたのか。大垣書店が選んだ答えは、「自分たちの店」だけで完結しない方法だった。
地域の書店と手を組む
「30年増収」と聞くと、特別な仕組みや大胆な戦略を想像するかもしれない。だが大垣さんは、その見方をきっぱり否定する。
「正直、特別なことはしてない。本当はうちの経営も楽じゃないですよ」
増収ではあるが、実態は常に綱渡りに近いバランスの上に成り立っているという。一般的に書店業界の経常利益率は平均2%前後にすぎない。家賃や人件費、内装費、本棚のリース代――店を構えるだけで固定費は重くのしかかる。売り上げが伸びたとしても、利益が大きく残る構造ではない。大垣書店も、決して例外ではないのだ。
それでも売り上げを積み重ねてこられた理由は、「毎年1店舗ずつ出店してきただけ。それを30年続けてきた」という、驚くほどシンプルなものだった。
だが出店だけでは、書店の未来は守れない。そこで大垣さんは「自分の店を増やす」だけでなく、「仲間の店を支える」道を選んだ。
象徴的な事例が、北海道札幌市の「なにわ書房」。きっかけは、業界の会合で交わした何気ない会話だった。「一度、北海道に来てくださいよ」という一声から、関係が始まったのだ。
実際に店を訪ねてみると、現場の悩みは切実だった。「お客さんが減っている」「イベントをやっても続かない」などの経営課題を、隠さず打ち明けてくれたという。大垣さんは、特別な改革案を提示したわけではない。「僕だったら、こうするかな」と、これまで積み重ねてきた自身の経験をもとに、率直な意見を伝えた。

