ダイビング歴26 年一番の海は「小笠原」

伊豆半島の西側、雲見海岸沖。晴れていれば牛着岩うしつきいわの向こうに富士山の雄姿が望めるはずですが、今日は雲に隠れています。しかし、この海面の下にはそれに勝るとも劣らない絶景が広がっているのです。ボートに揺られること数分、ダイビングポイントに着きました。マスクを整え、船尾に立ちます。背中のタンクの重さを確かめて、海面へ大きく一歩を踏み出します。

水面が頭上を過ぎて、視界が開ける。揺らぐ陽光が岩肌を照らしています。ここは入り組んだ地形が魅力のスポットで、光と影の濃淡の中に、無数の魚たちが息づいています。銀色に輝くキビナゴの群れが流れていき、岩肌の奥の暗い穴からはタコがこちらを見ています。カラフルなニシキウミウシが岩肌に張り付き、洞窟に入るとキンメモドキの大群が岩間を縫うように流れていきます。暗いトンネルを抜けると、天井からスポットライトのように光が降り注ぐ出口が見える。その中を色とりどりの魚たちが、生命を輝かせながら泳いでいます。

海中には響く音がありません。潮が砂や岩にぶつかるときの微かな水音、時折カチカチと魚が歯ぎしりする音、そして自分がスゥーと空気を吸いボコボコと吐き出す音のみ。圧倒的な静寂に包まれて、自分の五感が研ぎ澄まされていくのを感じます。日々の生活で完全に忘れていた、自分の中の本能が目覚めていく――海に潜るたびに、私は「自分にはこの時間がどれだけ必要だったのか」と気づきます。

ダイビングを始めたのは26年前。勤続10年の記念休暇で、妻とまだ幼かった子どもを連れて、ハワイへ向かいました。子どもの面倒を交代で見ながら講習を受け、ライセンスを取得。その後、夏冬の休みには国内のいろいろな海へ足を運びました。子どもにも中学3年のときにライセンスを取らせました。だんだん部活や友達との時間が増え一緒には来なくなりましたが、妻とは今も時間を見つけて潜っています。

これまでで一番印象的だったのは、60歳のときに「自分へのご褒美」で訪れた小笠原です。そこには船で片道24時間という不便さと引き換えの、荒らされていない大自然がありました。背びれの先端が白いホワイトチップシャーク、暗い穴の中を何百匹というイソマグロがぐるぐると回遊する洞窟、ある時はイルカが一緒に遊んでくれました。陸に上がれば色とりどりの美しい鳥たちの声が聞こえ、夜は満天の星。いつかもう一度、あの海に帰りたい。その日を夢見て、今日も仕事に励んでいます。

「木のよさ」を追究し縮小する市場で成長する

家づくりに携わっていると、素材にはそれぞれ表情があることを感じます。木は生きてきた時間がそのまま質感となり、香りとなり、手触りになります。人が自然の中で安心する理由のひとつは、そのわずかな揺らぎにあるのかもしれません。光も風も水も、少しずつ変化します。それを受け止める感覚が、木にはあるのでしょう。

木は成長の過程で二酸化炭素を吸収し、建物として存在する限り固定します。環境への貢献から注目されているのに加えて、私が大切にしたいのは、木が持つ「人を落ち着かせる力」です。お客様は「木の家に帰るとほっとする」とおっしゃいます。今は大学の先生方と木の香りや住環境が睡眠や認知機能に与える影響を研究し、住む人に寄り添う建物を科学的に追究しています。

住宅市場は大きく変わりました。注文住宅市場は縮小、価格が上昇し、家づくりにかけられる時間も少なくなっています。それでも「木の家に住みたい」という気持ちに応えていきたい。すべてを一からつくる家もあれば、効率を考えながら「自分らしさ」を実現したいという要望もあります。どんなかたちであっても、木のよさを活かしながら暮らしを支える方法を生み出す力が、当社の強みだと考えています。

また近年、老人ホームやクリニック、店舗や小規模オフィスを木造で建てたいという声も増えてきました。木は暮らしだけではなく、街の表情を変えうる力を持っています。木造建築の可能性は幅広いのです。

注文住宅、効率的に選ぶ家づくり、そして非住宅の木造化。形は変わっても、根底にあるのは「木の力をどう生かすか」という問いです。素材が持つ力を信じ、その価値を未来につなげ成長していく。それこそが、私が三井ホームという舞台で果たしていくべき役割だと思っています。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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