妻の後ろ姿の写真が増えてしまう理由

坂道の向こうに海が光っています。晩秋の鎌倉。今日は天気が良く、澄んだ青空が気持ちいい。私は足を止め、カメラを構えました。ファインダーを覗くと、逆光の海に向かって妻が歩いています。シャッターを切る瞬間、彼女が画角の端に写り込みました。いつものことです。私がいいアングルを見つけて立ち止まると、彼女はスタスタと先へ行ってしまう。気づけば、私の撮る写真には、妻の背中が写っているものが多くなっています。決して、彼女の後ろ姿を撮りたいわけではないのですが――。

8年前、出張や小旅行の折にスマートフォンで風景を撮るうちに、もう少しちゃんとした写真を残したいと思うようになり、ミラーレス一眼を手に入れました。愛機は「OLYMPUS OM-D」。小さな筐体とクラシカルなデザインが気に入っています。

カメラは仕組みが面白い。露出、絞り、シャッタースピード。設定を変えるだけで、まったく印象の違う写真が出来上がります。上達しようと本を読むのですが、すぐに飽きてしまって、結局は自己流です。夜、書斎でその日撮った写真を見返しながら「次は露出を変えてみよう」「シャッタースピードを遅くすればよかった」など、構想を練ったり反省したりしています。

カメラを携え被写体を探していると、普段は気づかないものが目に入ります。風雨で褪せた道路標識、石積みの割れ目から根を張って小さな花を咲かせている植物、近所の神社の境内を覆う紅葉。何度も通った道なのに、こんなものがあったのかと驚くことがあります。

ある日、妻といつもの道を歩いていると、通りがかりの女性に「この近くにバス停はありますか」と尋ねられました。後から調べるとすぐ近くにあったのですが、私たちは普段、近所でバスに乗ることがないので答えられませんでした。職場では「社会課題の解決には生活者の視点が大切だ」などと訴えていたのに、自分自身がちゃんと見えていなかった。立場が変われば、必要なものも変わる。カメラを持つと見えるものがあるように、意識して視点を変えることの大切さに気づかされました。

約4.6兆円の売上高をさらに伸ばす視野の持ち方

私たちNTTデータはこれまで事業領域ごとに最適化を進めてきましたが、いまの社会課題の多くは一部門だけでは解けません。必要な視点は一つではなく、複数の領域が交差するところにあります。

NTTデータグループの売り上げ構成は国内が4割、海外が6割。国内では売上高ベースで業界1位ですが、グローバルでは8位にとどまっています。全世界で約20万人の仲間が働き、年間売上高は約4兆6000億円。さらに伸ばしていくには、分野を超えて価値を生み出す力が欠かせません。

国内外の知見をつなぎ、公共・金融・法人といった枠組みを横断しながら、新しい解決策を提示していく。視野を広げ、目線を増やしていくことが、これからの成長の鍵になると感じています。だからこそ社員には「枠をはみ出そう」と訴えています。分野が交わるところに、新しい発想や連携の芽が生まれるのだと思います。私自身もできるだけ現場に足を運び、越境のきっかけをつくっています。

社員との距離をもっと近くしたいと思い、これまでにない企画にも挑戦しています。私がDJを務めるラジオ番組(社内限定)「Masa Meets RADIO」では普段なかなか言葉を交わせない社員にも思いが届きますし、各拠点に出向く「Masa MeetsLIVE TALK」では、その場で働く人たちと率直に話をします。部門や役職を超えて言葉を交わせると、見えてくるものが変わります。

2025年11月で60歳になりました。還暦の記念に、自分自身へのご褒美として、新しいカメラを手に入れようと考えています。この取材で知り合った写真家さんには、フルサイズのミラーレスを薦められました。データ量が多いほうが画はきれいだし、背景のボケ具合も雰囲気がよくなるのだとか。いま、ネットで情報を調べながら比較検討しているところです。こうやって悩んでいる時間も、また楽しいものです。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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