わかりやすく話すためには何をすればいいか。スピーチコンサルタントの阿部恵さんは「説明下手は準備もせずに『即興パフォーマー式』で話し始める。一方で、説明上手は『名探偵コナン式』で聴衆分析を欠かさない」という――。

※本稿は、阿部恵『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

会議中にマイクに向かって話しながら笑う若い実業家
写真=iStock.com/Igor Suka
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説明上手がしている「緊張を乗り越えるための対策」

説明上手は「緊張対策」をするが、
説明下手は「緊張MAX」のままで臨む

人前で話すことに苦手意識を持たれている方は多いでしょう。社会人を対象とした調査では、「84%が人前で話すことが苦手」と答えています。

しかし、緊張しているのに上手に説明できる人がいるのも事実です。それは、説明上手が「緊張を乗り越えるための対策」をしているからです。

一方、説明下手は何の対策もとらず「緊張MAX」のままで説明に臨みます。

実は、私も緊張しやすく、若手の頃は極度の緊張状態から、うまく話せないことが何度もありました。しかし、ある出来事をきっかけに、“気持ちの切り替え方”を学んだのです。

バラエティ番組の仕事で、ベテランの芸人さんと一緒に司会をすることになりました。事前にその芸人さんの楽屋へ行き挨拶をしたのですが、私とは一切目を合わせてくれず、「あぁ」と返事をするだけ。まだ若手だった私は完全に萎縮してしまい「これでは、本番でうまくいかないかもしれない」と泣きそうでした。

ところが、本番前。「5秒前、4、3、2……」とカウントダウンが始まると、その人の表情がパッと変わって、「どうも~、○○で~す!」と明るくお客様に話し始めたのです。それを見たとき、「ここでは、この人に何を言っても大丈夫だ!」と安心しました。もちろん、私ともしっかり目を合わせて進行してくれました。

おそらくその芸人さんは、人見知りが強く、初対面の人とのコミュニケーションが得意ではなかったのでしょう。しかし、プロとして仕事はこなさなくてはならない。だから本番では人見知りは封印して、自分で「心のスイッチをON」にしたのです。

心のスイッチをONに
イラスト=村林タカノブ