「これならできるかも」と思ってもらえるか

また、エリック・リースによって提唱された「リーン・スタートアップ」という方法論では、仮説を小さなステップに分けて高速で検証することが推奨されています。小さな学習を重ねることで、時間やコストを抑えられるわけです。大きな課題を大きなまま取り組むのではなく、小さく切り分けるというのがどれほど効果的か、お分かりいただけるでしょう。

「これならできるかも」と相手に思ってもらえたなら、それは間違いなく「得する伝え方」です。相手の背中を押すような選択肢を、あなたが提案できている証拠だからです。

千里の道も一歩から。一歩目は、ほんの少しの歩幅でいいのです。えっ、そんな簡単なことでホントにいいんですか? と相手が思ってしまうくらいでちょうどいい。「議事録のクオリティを上げてくれ」ではなく、「スマホで会議をまるっと録音してみようか」。

「コストダウンしてくれ」ではなく、「この項目の費用をリストアップしてみよう」。

そんな一歩目を提示することで、相手がなんなら拍子抜けさえしながら動いてくれる。当然、目指すゴールはまだ先ですから、さらに一歩踏み込んで次のハードルを一緒に設定していくことになるでしょう。それでも高いハードルを提示して動きがにぶることに比べれば、大きな大きな前進です。

相手が選べるよう、いくつかの選択肢を出すのもよいでしょう。選択の余地があることで、相手との対話が生まれます。繰り返しになりますが、低いハードルは第一歩です。どういう思いで、どんなハードルをネガティブに感じていて、どんなハードルなら前向きに感じてもらえるのか。対話によって得られる情報は、次のハードルを設定する際の大切なヒントになります。

選択肢を用意することが相手の負担軽減になる

特に、相手が決断しなければならない場面を考えてみましょう。一つに決めることが必要ではあるけれど、そもそも選択肢は一つしかない……これではただでさえ決断による負担が大きい中で、さらなるプレッシャーを強いてしまうことになります。複数の選択肢を用意することは、相手の手間を増やすのではなく、むしろ負担軽減につながります。

「今日中に資料の提出が間に合わないので、明日にさせてください」ではなく、「総括の3ページだけで良ければ、今日中に仕上げられます。もしくは全体を明日16時までに完成させるか、どちらがよいでしょうか」。

藤田卓也『伝え方で損する人 得する人』(SBクリエイティブ)

「新商品のためのデジタルキャンペーンをご提案させてください」ではなく、「最新事例のご紹介もできますし、御社の業界を専門としているアナリストをご紹介することも可能です」。

といった具合に、ゴールへ近づくためのステップを見渡し、一歩目となる小さなハードルを設定してみましょう。どうしても具体的なハードルを決められない場合は、いくつかの質問を用意して相手の中の判断基準やニーズを探ることです。

闇雲に選択肢を投げかけても、相手にとってメリットのあるものでなければ意味がありません。会話はキャッチボール。仕事はパス回し。やりとりを重ね、情報を積み上げ、ベストな選択肢を導き出していきましょう。

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