成功する企画と失敗する企画の差は何か。博報堂執行役員の嶋浩一郎さんは「ヒットするすべての企画は『人間の欲望』をとらえている。グーグルは『理系人材の隠れた欲望』を巧みに利用した採用看板を出して優秀な人材の発掘に成功した」という――。

※本稿は、嶋浩一郎『「あたりまえ」のつくり方』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。

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人間は欲望を言語化できない生き物

ビジネスパーソンのみなさんなら、「インサイト」という言葉を聞いたことがあるはずです。

端的に言えば、人間の潜在的欲望、つまり「隠れた欲望」と考えたほうがいいでしょう。

なぜ「隠れている」のかと言えば、人間は不器用なので、自らの欲望の大半を「何がほしい」「何をしたい」と具体的に言語化できないからです。

人間の欲望は氷山のようです。言語化できている、つまり顕在化した欲望は水面上の少しの部分でしかありません。大半は水面下にかくれた言語化できていない潜在的な欲望です。

そう、多くの人はモヤモヤとしているだけなんです。だから、「インサイト」を探し当てるのはなかなか至難の業です。

しかし、「インサイト」をとらえることは、新しい「あたりまえ」を推進することに不可欠と言っていいくらい重要なのです。

刺さる企画はすべて「人間の欲望」をとらえている

マーケティングや広告やコンテンツの企画書には「インサイト」の文字が躍っています。人々はこんな欲望を持っているから、こんな商品を開発しましょうとか、こんな広告を打ったら刺さるはずですとか、このドラマはヒットするはずだとか。

ビジネスで意思決定をする場で、「インサイト」がその根拠の決め手になることがあるわけですが、そもそもその「インサイト」自体があっているのか? と疑問に思うことが多々あります。というかはっきり言いまして、インサイトが企画の後づけになっているケースはザラにあります。

ぼくはそういうインサイトを「捏造インサイト」と呼んでいます。ヒットするすべての企画はインサイトをとらえているわけですが、逆に言えばインサイトをとらえていないモノには、人は見向きもしないのです。それは、新しい「あたりまえ」も同じことです。

新しいコンテンツ、新しいファッション、新しい商品・サービスでも、潜在的な欲求が形になったものが、眼の前に現れた途端、人は「そうそうこれがほしかった」「そうそうそれがしたかったの」と直感的に恋に落ち、飛びつきます。